皮膚筋炎/多発性筋炎(指定難病50)

ひふきんえん/たはつせいきんえん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
自己免疫性の炎症性筋疾患で、主に体幹や四肢近位筋、頸筋、咽頭筋などの筋力低下を来す。典型的な皮疹を伴うものは、皮膚筋炎と呼ぶ。疾患の本態は筋組織や皮膚組織に対する自己免疫であるが、全ての筋・皮膚組織が冒されるわけではなく、特に皮膚症状では、特徴的部位に皮疹が出やすい。検査所見上、筋組織崩壊を反映して、筋原性酵素高値を認めるほか、他の膠原病と同様に高γグロプリン血症や自己抗体を認める。2009年の臨床調査個人票の解析結果によれば、多発性筋炎(polymyositis:PM)・皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)の推定患者数はほぼ同数で、男女比は1:3で、発症ピークは5~9歳と50歳代にあった。
 
2.原因
本疾患の骨格筋には、単核球の未壊死筋線維周囲への浸潤と、筋線維の変性、壊死、再生が認められる。浸潤細胞は、T、Bリンパ球、マクロファージなどである。かつて、多発性筋炎では浸潤細胞にCD8陽性Tリンパ球が多く、皮膚筋炎ではCD4陽性Tリンパ球が多い上、筋血管内皮細胞に補体沈着が認められたことから、前者はキラーCD8陽性Tリンパ球による筋組織傷害、後者は抗体による筋血管障害が原因であるとの説が唱えられた。しかし、その後の研究成果や両疾患の治療反応類似性、皮膚炎だけの無筋炎型皮膚筋炎の存在から、症例それぞれの程度で筋炎と皮膚炎を発症する炎症性筋疾患という一つのスペクトラムであるとも考えられる。
 
3.症状
①全身症状として、発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、体重減少など、②筋症状として、緩徐に発症して進行する体幹、四肢近位筋群、頸筋、咽頭筋の筋力低下が多く、嚥下にかかわる筋力の低下は、誤嚥や窒息死の原因となる。進行例では筋萎縮を伴う。③DMに特徴的な顔面皮膚症状は、ヘリオトロープ疹と呼ばれる上眼瞼の浮腫性かつ紫紅色の紅斑である。手指の指節間関節や中手指節関節の背側には、ゴットロン丘疹と呼ばれる紫色の丘疹ないし紅斑を生じる。
これらの三大徴候の他に、V徴候やショール徴候と呼ばれる紫紅色斑や、手指皮膚の角化、一カ所の皮膚病変に、多彩な皮膚病変が混在するものを多形皮膚と呼ぶ。レイノー症状も約30%の症例に見られるが、強皮症のように皮膚潰瘍や手指壊疽に進行することは少ない。
間質性肺炎を伴うことがあり、生命予後を左右する。特に急速進行例には、そのまま進行して呼吸不全となって死に至る病型がある。また、進行例では、不整脈、心不全などがみられることがある。一般人口と比してDMでは約3倍前後、PMでは2倍弱悪性腫瘍を伴いやすい。
 
4.治療法
筋組織にリンパ球やマクロファージ浸潤を伴う自己免疫性組織障害が病態の基本であり、副腎皮質ステロイド薬投与が第一選択となる。嚥下障害、急速進行性間質性肺炎のある症例では、救命のため、強力かつ速やかに治療を開始する必要がある。
皮膚炎主体の症例では遮光の推奨と局所ステロイド薬治療が優先される。副腎皮質ステロイド薬が、効果不十分、精神症状などの副作用により使えない、減量により再燃するなどの症例では、免疫抑制薬を併用する。即効性のある治療法として、免疫グロブリン大量静注療法があるが持続性に乏しく、寛解導入には他剤で免疫抑制を行う必要がある。
急速進行性の間質性肺炎を合併する症例では、当初から高用量副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬を併用する。また、悪性腫瘍検索を十分に行い、治療することが大切である。
 
5.予後
急速進行性間質性肺炎や悪性腫瘍を合併する症例は予後が悪く、多発性筋炎・皮膚筋炎の初発患者のうち約10%は死の転機を迎える。全症例の5年生存率は、約80%前後とされるが、治療法は進歩しており、更に改善していると思われる。しかし、筋炎はステロイド減量で再燃しやすく、また、筋力回復には長期必要する場合も多く、治療後も過半数の症例に筋力低下が残るという。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
23,168人
2.発病の機構
不明
3.効果的な治療方法
未確立(根治的療法なし。)
4.長期の療養
必要(内臓病変を合併、再燃しやすい。)
5.診断基準
あり(現行の特定疾患治療研究事業の診断基準から改定)
6.重症度分類
研究班による分類基準を用い、1)~4)のいずれかに該当するものを医療費助成の対象とする。
 
○ 情報提供元
「自己免疫疾患に関する調査研究班」
研究代表者 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 生涯免疫難病学講座 教授 森 雅亮
 
<診断基準>
1.診断基準項目
(1)皮膚症状
(a)ヘリオトロープ疹:両側または片側の眼瞼部の紫紅色浮腫性紅斑
(b)ゴットロン丘疹:手指関節背面の丘疹
(c)ゴットロン徴候:手指関節背面および四肢関節背面の紅斑
(2)上肢又は下肢の近位筋の筋力低下
(3)筋肉の自発痛又は把握痛
(4)血清中筋原性酵素(クレアチンキナーゼ又はアルドラーゼ)の上昇
(5)筋炎を示す筋電図変化*1
(6)骨破壊を伴わない関節炎又は関節痛
(7)全身性炎症所見(発熱、CRP上昇、又は赤沈亢進)
(8)筋炎特異的自己抗体陽性*2
(9)筋生検で筋炎の病理所見:筋線維の変性及び細胞浸潤
 
2.診断のカテゴリー
皮膚筋炎:18歳以上で発症したもので、(1)の皮膚症状の(a)~(c)の1項目以上を満たし、かつ経過中に(2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの。
若年性皮膚筋炎:18才未満で発症したもので、(1)の皮膚症状の(a)~(c)の1項目以上と(2)を満たし、かつ経過中に(4)、(5)、(8)、(9)の項目中 2 項目以上を満たすもの。
無筋症性皮膚筋炎: (1)の皮膚症状の(a)~(c)の1項目以上を満たし、皮膚病理学的所見が皮膚筋炎に合致するか*3(8)を満たすもの。
多発性筋炎:18歳以上で発症したもので、(1)の皮膚症状を欠き、(2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの。
若年性多発性筋炎:18才未満で発症したもので、(1)皮膚症状を欠き、(2)を満たし、(4)、(5)、(8)、(9)の項目中 2 項目以上を満たすもの。
 
3.鑑別を要する疾患
感染による筋炎、好酸球性筋炎などの非感染性筋炎、薬剤性ミオパチー、内分泌異常・先天代謝異常に伴うミオパチー、電解質異常に伴う筋症状、中枢性ないし末梢神経障害に伴う筋力低下、筋ジストロフィーその他の遺伝性筋疾患、封入体筋炎、湿疹・皮膚炎群を含むその他の皮膚疾患
なお、抗ARS抗体症候群(抗合成酵素(抗体)症候群)、免疫介在性壊死性ミオパチーと診断される例も、本診断基準を満たせば本疾患に含めてよい。
 

*1
若年性皮膚筋炎および若年性多発性筋炎で筋電図の施行が難しい場合は、MRIでの筋炎を示す所見(T2強調/脂肪抑制画像で高信号、T1強調画像で正常信号)で代用できるものとする。
*2 
ア) 抗ARS抗体(抗Jo-1抗体を含む)、イ) 抗MDA5抗体、ウ) 抗Mi-2抗体、エ)抗TIF1-γ抗体、オ) 抗NXP2抗体、カ) 抗SAE抗体、キ) 抗SRP抗体、ク) 抗HMGCR抗体。 
*3 
角質増加、表皮の萎縮(手指の場合は肥厚)、表皮基底層の液状変性、表皮異常角化細胞、組織学的色素失調、リンパ球を主体とした血管周囲性あるいは帯状の炎症細胞浸潤、真皮の浮腫増加、ムチン沈着、脂肪織炎あるいは脂肪変性、石灰沈着などの所見の中のいくつかが認められ、臨床像とあわせて合致するかどうかを判断する。
 
<重症度分類>
以下のいずれかに該当する症例を重症とし、医療費助成の対象とする。
1)原疾患に由来する筋力低下がある。
体幹・四肢近位筋群(頸部屈筋、三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、腸腰筋、大腿四頭筋、大腿屈筋群)の徒手筋力テスト平均が5段階評価で4+ (10段階評価で9) 以下
又は、同筋群のいずれか一つのMMTが4(10段階評価で8)以下
2)原疾患に由来するCK値もしくはアルドラーゼ値上昇がある。
3)活動性の皮疹(皮膚筋炎に特徴的な丘疹、浮腫性あるいは角化性の紅斑、脂肪織炎*が複数部位に認められるもの)がある。 *新生または増大する石灰沈着を含む
4)活動性の間質性肺炎を合併している(その治療中を含む。)。
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 自己免疫疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)