ウエスト症候群(指定難病145)

うえすとしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. ウエスト(West)症候群とは

乳児期に発症し、薬剤治療を行っても発作がとまりにくい(薬剤抵抗性)てんかんで、別名「乳児てんかん性スパズム症候群」、「点頭てんかん」とも呼ばれ、多くは 重篤 な脳障害を背景に生後3-11ヵ月時に発症します。てんかん発作は、てんかん性スパズム、別名「点頭発作」と呼ばれる特徴的な発作です。また脳波検査でヒプスアリスミアと呼ばれる特徴的なてんかん性異常波があり、多くの患者さんでは発達の遅れを認めます。既知の小児薬剤抵抗性(難治)てんかんの中では最も人数が多いとされています(図1)。

図1. 6歳以下発症の312例の薬剤抵抗性(難治)てんかんのてんかん分類
6歳以下発症の312例の薬剤抵抗性(難治)てんかんのてんかん分類の円グラフ
Oguni H, et al. Clinical analysis of catastrophic epilepsy in infancy and early childhood: Results of the Far-East Asia Catastrophic Epilepsy (FACE) study. Brain Dev 35:786–792,2013 より一部改編

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

ウエスト症候群は、岡山県における小児てんかんの 疫学調査 から13歳以下の全小児てんかんの4.93%を占め、本邦では少なくとも約4000人の患者がいると推測されます。

3. この病気はどのような人に多いのですか

約80%は、生まれる前あるいは出生直後に起こった脳障害の合併症としてウエスト症候群を発症しますが、約20%の患者さんでは発症までの発達は正常で、かつ様々な検査でも異常を認めません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

大脳の奇形や、出生時の仮死など、なんらかの脳障害が原因と推測されていますが、全ての患者さんに共通する原因は明らかになっていません。

5. この病気は遺伝するのですか

ウエスト症候群自体は遺伝しませんが、遺伝性の脳の病気に本症を合併する場合には遺伝する可能性があります。また遺伝子の変異が関与するウエスト症候群も報告数が増加していますが、その遺伝子の変異が同時に脳障害を引き起こす原因遺伝子と考えられています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

生後3-11ヵ月時に覚醒直後や眠いときに突然、頭部を一瞬垂れたり、四肢を一瞬縮めたりする発作(てんかん性スパズム)が5-40秒毎に繰り返し続きます。この繰り返しをシリーズ形成と呼びますが1日何回もシリーズが出現します。発症前後より患児は笑わなくなったり、不機嫌になったり、また今までできていた首のすわりやお座りができなくなったりすることが特徴です。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)治療で50-80%、ビガバトリン治療で40-50%、他の抗てんかん発作薬治療で20-40%程度の患者さんで発作を抑制することが可能とされます。またACTH治療や抗てんかん発作薬治療が無効な患者さんの一部でケトン食療法やてんかん外科治療が有効な場合があります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

長期的には約50%の患者さんでてんかん発作が持続します。また約80-90%の患者さんでは様々な程度の発達の遅れを生じます。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

ウエスト症候群では、治療の目安としててんかん性スパズムの完全抑制と脳波上のヒプスアリスミアの消失をめざします。後者は脳波検査が必要ですが、前者では家庭で発作の観察が必要です。特に5-40秒毎に生じる軽度の目の動きや手足の動きに注意しましょう。服薬は忘れずに時間を守って服薬しましょう。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

点頭てんかん
乳児スパズム
乳児てんかん性スパズム症候群

11. この病気に関する資料

1. Hirano Y, Oguni H, Shiota M, Nishikawa A, Osawa M. Ketogenic diet
therapy can improve ACTH-resistant West syndrome in Japan.
Brain Dev.  37:18-22:2015

2. Oguni H, Otsuki T, Kobayashi K, Inoue Y, Watanabe E, Sugai K, Takahashi A, Hirose S, Kameyama S, Yamamoto H, Hamano S, Baba K, Baba H, Hong SC, Kim HD, Kang HC, Luan G, Wong TT. Clinical analysis of catastrophic epilepsy in infancy and early childhood: Results of the Far-East Asia Catastrophic Epilepsy (FACE) study. Brain Dev  35:786-92:2013

3. Fujii A, Oguni H, Hirano Y, Shioda M, Osawa M. A long-term, clinical study on symptomatic infantile spasms with focal features. Brain Dev.  35:379-85:2013

4. Oguni H, Yanagaki S, Hayashi K, Imai K, Funatsuka M, Kishi T, Osawa M. Extremely low-dose ACTH step-up protocol for West syndrome: Maximum therapeutic effect with minimal side effects.    Brain Dev. 28:8-13:2006

5. Oguni H, Funatsuka M, Sasaki K, Nakajima T, Yoshii K, Nishimura T, Osawa M. Effect of ACTH therapy for epileptic spasms without hypsarrhythmia.
Epilepsia  46:709-15:2005.

6. Yanagaki S, Oguni H, Yoshii K, Hayashi K, Imai K, Funatsuka M, Osawa M. Zonisamide for West syndrome: A comparison of clinical responses among different titration rate.
Brain Dev 27:286-90:2005.

用語解説

ヒプスアリスミア:ギリシャ語で「ヒプス」は高い山、「アリスミア」は律動の異常を指し、ウエスト症候群においてみられる特異な高振幅で不規則性のてんかん性異常を指します。
 
ACTH治療:副腎皮質刺激ホルモン注射を2-3週間程度連日注射し、その後に徐々に中止していく治療法であり、1ヵ月程度の入院が必要です。
 
ケトン食治療:厳格に作成した高脂肪、低炭水化物の組成の食事で体内にケトン体を産生させ、てんかん発作を抑制する特殊な食事療法です。

 

情報提供者
研究班名 稀少てんかんの診療指針と包括医療の研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年11月(名簿更新:令和6年6月)