ウエスト症候群(指定難病145)

うえすとしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)


※こちらの内容は以下の難病共通になります。
レノックス・ガストー症候群(指定難病144)
ウエスト症候群(指定難病145)
大田原症候群(指定難病146)
早期ミオクロニー脳症(指定難病147)
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん(指定難病148)

○ 概要
 
1.概要
乳幼児期に発症するてんかんの中には、年齢依存性に発症し、発作コントロールが難しく、知的予後が不良なてんかん症候群が複数ある。近年、発達性てんかん性脳症と呼ばれ、原因は一部共通することはあるが、多くは異なり、発作症状や脳波の特徴、治療方法も異なるため、異なる疾患の集合体である。ここでは、こうした症候群のうち、レノックス・ガストー症候群、ウエスト症候群、大田原症候群、早期ミオクロニー脳症、遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんを取り上げた。

1) レノックス・ガストー症候群(Lennox-Gastaut症候群):小児期に発症する難治性てんかんを主症状とするてんかん症候群で、①強直発作や非定型欠神発作、脱力発作を中心とした多彩なてんかん発作が出現、②睡眠時の速律動、全般性遅棘徐波複合といった特徴的な脳波所見がある、③知的障害や失調症状、睡眠障害などを合併する。
2) ウエスト症候群(West syndrome): 欧米では乳児攣縮とも呼ばれることもある。その成因は多彩であり、出生前由来の結節性硬化症から後天的な急性脳炎後遺症まで様々である。発症前の発達は、重度の遅れがある場合から正常発達まである。好発年齢は1歳以下で、2歳以上は稀である。その発作は特異であり、座位や立位では頭部を一瞬垂れることから、日本では点頭発作と呼ばれている。以前はミオクロニー発作に分類されたり、強直発作に近いということで強直スパズムと呼ばれたりした時期もあったが、最近では独立した発作型概念として「てんかん性スパズム(Epileptic spasms: ES)」として分類されるようになった。発作は単独でも出現するが、多くは「シリーズ形成」と称される様に周期性(5~40秒毎)に出現するのが特徴である。脳波所見も特徴的で、Gibbsらにより「ヒプスアリスミア」と命名された無秩序な高振幅徐波と棘波から構成される特異な発作間欠期脳波を呈する。覚醒時、睡眠時を問わずほぼ連続して高度の全般性異常波が出現し、ウエスト症候群が属する「てんかん性脳症」の概念の中核を成す所見である。発作予後、知的予後は不良とされ、急速な精神運動発達の停止や退行は不可逆性の場合が多い。治療法には限界があるが、ACTH療法やビガバトリンが本症候群治療の主流を成している。てんかん発作の予後として30~40%の症例は、その後にレノックス・ガストー症候群に移行する。
3) 大田原症候群:重症の発達性てんかん性脳症。早期乳児てんかん性脳症(EIEE)とも言う。新生児〜乳児期早期に発症し、ESを主要発作型とする。焦点発作を伴うこともある。脳波ではサプレッション・バーストパターンが覚醒時・睡眠時を問わず出現する。脳形成異常や遺伝子変異など原因は多様。発達に伴い、ウエスト症候群やレノックス・ガストー症候群へと年齢的変容を示す。
4) 早期ミオクロニー脳症: 生後1か月以内(まれに3か月以内)に発症する重篤なてんかん性脳症で、眼瞼、顔面、四肢などの不規則で部分的な、ばらばらで同期しないミオクローヌス(erratic myoclonus)ではじまり、次いで微細な発作、自動症、無呼吸、顔面紅潮などを伴う多彩な焦点運動発作が現れる。時に全身性ミオクローヌス、まれには後に強直発作、ESを示す。脳波はサプレッション・バーストパターンを示し、睡眠時により明瞭になる(睡眠時のみのこともある)。発作は極めて難治で、発作予後、発達予後ともに極めて不良であり、半数は1歳以内に死亡し、生存例も全て寝たきりになる。基礎疾患として代謝異常症が多いとされるが、わが国では脳形成異常が少なくない。家族発症もあり、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)が疑われている。
5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: けいれん発症までの発達が正常な生後6か月未満の児におこるてんかん性脳症で、発作中に脳波焦点が対側または同側の離れた部分に移動してそれに相応する多様な焦点性運動発作を示し、後に多焦点性の発作がほぼ連続するようになる。発作焦点部位の移動に伴い、眼球・頭部の偏位、瞬目、上下肢や顔面・口唇・口角・眼球の間代や部分強直、咀嚼、無呼吸、顔面紅潮、流涎、あるいは焦点起始両側強直間代発作など多様に変化する。初期には無呼吸、チアノーゼ、顔面紅潮などの自律神経症状が目立つことがあるが、ESやミオクローヌスを示すことはほぼない。既存の抗てんかん薬やステロイド、ビタミン剤、ケトン食などは無効で、臭化カリウムが最も有効であるが、発作予後、発達予後ともに極めて不良であり、重度の精神運動発達遅滞となる。発症時の頭部MRIには異常はない。発症の原因となる遺伝子異常が判明しつつある。

2.原因
1) レノックス・ガストー症候群: 基礎疾患として脳形成異常や、低酸素性虚血性脳症、外傷後脳損傷、脳腫瘍、代謝異常、染色体異常、先天奇形症候群、遺伝子異常などがあるが、共通する病態は見出されていない。近年、レノックス・ガストー症候群の中に、GABRB3ALG13SCN8ASTXBP1DNM1FOXG1CHD2の遺伝子変異を有する症例が報告されている。
2) ウエスト症候群: これまで、発症までの発達が正常であり脳画像所見を含む各種検査で異常がない①潜因性と、異常の存在する②症候性に分類されてきた。症候性の中には新生児低酸素性虚血性脳症、染色体異常症、先天奇形症候群、脳血管障害、結節性硬化症、未熟児傍側脳室白質軟化症、出血などが主な原因として含まれる。しかし、近年の遺伝子検査技術の進歩に伴いARXSTK9/CDKL5SPTAN1STXBP1などの遺伝子変異が発見される症例も報告されている。潜因性とされてきた患者の病態は多様である可能性があり、今後の解明が必要である。
3) 大田原症候群: 脳形成異常をはじめとする多様な脳障害を基礎疾患とするが、原因不明の例もあり、また遺伝子異常(ARXSTXBP1CASKKCNQ2SCN2Aなど)を背景としていることもある。
4) 早期ミオクロニー脳症: 種々の代謝異常症(非ケトン性高グリシン血症、D-グリセリン酸血症、メチルマロン酸血症、カルバミルリン酸合成酵素による高アンモニア血症、プロピオン酸血症など)が多いとされているが、わが国では脳形成異常が少なくない。非定型的であるがピリドキシン依存性もある。一部の症例からは、SLC25A22SIK1ERBB4AMTPIGAなどの遺伝子異常が見つかっている。
5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: かつては原因不明とされたが、現在では、患者の一部は遺伝子異常が原因で発症することがわかってきており、KCNT1SCN2ASCN1Aの異常の頻度が高い。

3.症状
1) レノックス・ガストー症候群:中心的な発作は、強直発作、非定型欠神発作、脱力発作で、それぞれ特有の発作症状と脳波所見を有する。精神発達遅滞は、90%以上に合併する。失調や睡眠障害を呈することも多い。
強直発作は睡眠時に比較的多く認められ、体幹筋を中心に左右対称性に筋収縮を認める数秒から1分程度の発作で、脳波には10~20Hzの両側全般性の速波(速律動)が出現する。経過の最後まで残る中核的な発作で、頻度は多い。非定型欠神発作は意識が軽く減損する発作で、ミオクローヌスが不規則に出現したり、ごく短い強直を伴ったりすることもある。持続時間は5~30秒程度が多く、2~2.5Hz前後の全般性遅棘徐波を呈する。ときに、数時間から数か月間という長期にわたり持続して、非けいれん性てんかん重積状態になることもある。脱力発作は、重力に抗して頭部や身体を支えている筋群の緊張が一瞬失われる発作で、頭部の屈曲や突然の転倒を引き起こし、頭部や顔面に受傷することも多い危険な発作である。
発作以外の症状では、知的障害をほぼ全例に認め、多くは中等度以上の知的障害で、自立は困難である。運動失調や痙性麻痺などによる歩行障害、てんかん発作による転倒の危険もあり、歩行も介助や見守りが必要なことが多い。
2) ウエスト症候群:i) 発症年齢:好発年齢は生後3~11か月で2歳以上の発症は稀である。
ii) てんかん発作型:覚醒直後に好発するESで、約5~40秒周期(約10秒程度が多い)で出現する極短時間の四肢の筋攣縮(座位では一瞬の頭部前屈を伴う)が特徴である。ESはその体幹の動きの方向より①屈曲型(34%)、②伸展型(25%)、③混合型(42%)、④非対称型(<1%)に分類される。また四肢の動きに注目して①対称型、②非対称型/非同期型、③焦点型、④焦点発作と併存型、⑤微細型、⑥短時間の脱力先行型、⑦非臨床型などに分類される場合もある。シリーズ形成中、ES開始当初より時間と共に徐々にESの動きの程度が弱くなる。治療の過程や年齢で単発のESが混在してくることがある。
iii) 脳波所見:ヒプスアリスミアと呼ばれる無秩序な高振幅徐波と棘波から構成される異常脳波である。
iv) 精神運動発達:ESの発症と前後して精神運動発達の停止とその後に退行がみられる。
3) 大田原症候群: 生後3か月以内、特に新生児期にESで発症する。シリーズ形成性あるいは単発で出現、覚醒時、睡眠時のいずれでも起こり、発作頻度は高い。焦点発作を伴うこともある。脳波ではサプレッション・バーストパターンが覚醒時・睡眠時問わず出現する。
4) 早期ミオクロニー脳症: ほとんどが生後1か月以内(特に1週間以内)にはじまり、睡眠時・覚醒時ともに見られる不規則で部分的なミオクローヌス(erratic myoclonus:眼瞼、顔面、四肢の小さなぴくつきで始まり、ある部位から他の部位に移動し、ばらばらで同期しない、一見、焦点間代発作にも見える)で発症し、次いで微細な発作、自動症、無呼吸、顔面紅潮などを伴う多彩な焦点発作を示す。Erratic myoclonusは通常は2-3週~2-3か月で消失する。時に全身性ミオクローヌス、後に強直発作や反復するESを示すこともあるが、まれである。脳波ではサプレッション・バーストパターン(SBP)が見られるが、睡眠時に顕著になり、睡眠時のみのこともあり、数ヶ月~数年間持続する。非典型的なヒプスアリスミアに変容することがあるがSBPに戻る。稀に初発時にSBPがなく、後に出現することがある。血液・生化学・尿検査では特異的所見はない。画像検査では、初期には異常なく、進行すると脳萎縮を示す。脳形成異常がみられることもある。
5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: 一側の焦点運動発作で初発し、半数の例で焦点起始両側強直間代発作をきたす。発作焦点部位の移動に伴い、眼球・頭部の偏位、眼瞼のぴくつきや眼球の間代、上下肢や顔面・口角の間代や強直、咀嚼、強直間代発作など多様に変化し、無呼吸、顔面紅潮、流涎などの自律神経症状を高頻度に伴い、特に無呼吸発作は初期には半数で認められ、経過中には4分の3の症例で認められる。発作の部位と症状は、移動する脳波焦点に相応する。発作は次第に頻度を増し、2−5日間群発して頻発する。ほぼ持続的に頻発する発作は1か月から1歳くらいまで続き、発達の遅れが顕在化する。その後は、発作は頻発しなくなる。わが国の例では群発型けいれん重積がほとんどの例で認められる。脳波では、初期には背景波の徐波化のみだが、やがて多焦点性棘波が現れ、発作中に脳波焦点が対側または同側の離れた部分に移動する。脳波上、連続する発作は一部重なり、一つの発作が終わる前に次の発作が始まる。血液・生化学的検査には特異的所見はない。画像検査では初期には異常なく、進行すると脳萎縮を示す。

4.治療法
1) レノックス・ガストー症候群: バルプロ酸、ベンゾジアゼピン系薬剤、ラモトリギン、トピラマート、ルフィナミドなどが使用されるが、極めて難治である。特殊な治療法として、ケトン食療法やてんかん外科手術も有効なことがある。
2) ウエスト症候群:有効率の観点より第1選択薬はACTH治療であるが、特に結節性硬化症においてはビガバトリンも第1選択薬となる。ACTH治療は副作用も多いため、まず有効性は劣るがより副作用の少ないゾニサミド、バルプロ酸、クロナゼパムやビタミンB6大量療法が試みられている。また、ケトン食療法も選択肢となる。頭部画像診断で限局性皮質脳異形成や片側巨脳症が存在し、切除可能な場合にはてんかん外科治療も行われる。
3) 大田原症候群:根治的な治療法はない。フェノバルビタール、ビタミンB6、バルプロ酸、ゾニサミド、ACTHなどが試みられる。片側巨脳症などの脳形成異常を基盤とする手術可能な症例は早期にこれを考慮する。
4) 早期ミオクロニー脳症: 通常の抗てんかん薬やホルモン治療(ACTHなど)、ケトン食療法などが行われるが、極めて難治である。代謝異常症が基礎にある場合はその治療で改善する場合もある。Erratic myoclonusは数週間あるいは数か月後に消失するが、焦点発作は持続し、治療抵抗性である。
5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: 極めて難治で、通常の抗てんかん薬、ステロイド、ケトン食、ビタミン剤(ビタミンB6など)は無効なことが多く、ビガバトリン、カルバマゼピンはけいれんを悪化させることがある。有効の報告例が多いのは臭化カリウムである。KCNT1遺伝子の異常に対し、KCNT1の部分的な拮抗薬である抗不整脈薬キニジンの有効例が報告されている。

5.予後
1) レノックス・ガストー症候群:完全に発作が消失する例は少なく、慢性に経過する。長期経過中にレノックス・ガストー症候群の特徴が消え、全般てんかんや焦点てんかんに変容することがある。発作は減少しても、知的障害や運動症状、行動障害などが残存し、ほぼ全例が自立不可能である。抗てんかん薬は、生涯にわたって必要である。死亡率は不明だが、発作そのものよりも合併症や事故により死亡する症例が多い。
2) ウエスト症候群: 発作の短期予後ではACTH療法などにより50~80%の症例が軽快するが、長期予後では約50%の症例でてんかんが持続する。また80~90%の症例で精神遅滞を呈し、自閉症の合併も高率である。
3) 大田原症候群:てんかん発作は難治であり、重度の知的障害や運動障害を伴う。
4) 早期ミオクロニー脳症: Erratic myoclonusは2-3週~2-3か月で消失するが、焦点起始発作は難治で、最重度の知的障害、運動障害が認められる。
5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: 発症前は正常発達だが、てんかん発作は難治で、発作予後、発達予後ともに不良なことが多い。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数 404人(指定難病144―148を合わせて))
1) レノックス・ガストー症候群:218人
2) ウエスト症候群:141人
3) 大田原症候群:100人未満
4) 早期ミオクロニー脳症:100人未満
5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん:100人未満
2.発病の機構
1)  レノックス・ガストー症候群: 不明(脳内ネットワークの異常)
2)  ウエスト症候群:不明(脳内ネットワークの異常と考えられるが、基礎疾患は多様であり、脳形成異常や遺伝子変異を背景とする例がある一方で原因不明の例もある。)
3) 大田原症候群:不明 (脳内ネットワークの異常と考えられるが、基礎疾患は多様であり、脳形成異常やSTXBP1などの遺伝子変異を背景とする例がある一方で原因不明の例もある。)
4) 早期ミオクロニー脳症:不明(基礎疾患はあっても多様、遺伝子異常も希である。)
5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん:不明 (KCNT1などの遺伝子異常が見つかる例がある一方で原因不明の例もある。)
3.効果的な治療方法
1) レノックス・ガストー症候群: 未確立(抗てんかん薬の調整、てんかん外科手術、食事療法等で一部改善する場合もあるが、寛解しない。)
2) ウエスト症候群:ある程度確立(ACTH治療、ビガバトリン)
3) 大田原症候群:未確立(抗てんかん薬の調整、てんかん外科手術、食事療法等で一部改善する場合もあるが、必ずしも寛解しない。発作抑制ができた場合でも障害は残る。)
4) 早期ミオクロニー脳症:未確立(難治で、通常の抗てんかん薬は無効。)
5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん:未確立(難治で、通常の抗てんかん薬で寛解することは難しい。)
4.長期の療養
1) レノックス・ガストー症候群: 必要(精神運動発達遅滞を呈することが多く、ほぼ全例で自立困難。)
2) ウエスト症候群:必要(成人に至っても自立した生活を送ることが困難な場合が多い。)
3) 大田原症候群:必要(てんかん発作は難治であり、重度の知的障害や運動障害を伴う。ほぼ全例で自立困難である。)
4) 早期ミオクロニー脳症:必要(発作予後、発達予後ともに不良で、最重度の知的障害、運動障害を伴う。)
5) 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん:必要(発作予後、発達予後ともに不良なことが多い)
5.診断基準
 あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.重症度分類
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分、障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。

 

「G40てんかん」の障害等級

能力障害評価

1級程度の場合

1~5全て

2級程度の場合

3~5のみ

3級程度の場合

4~5のみ

 


○ 情報提供元
「希少てんかんに関する包括的研究」
研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 客員研究員 井上有史
分担研究者 大阪大学大学院医学系研究科小児科学科小児科学講師 青天目 信
分担研究者 東京女子医科大学 小児科 准講師 伊藤進
分担研究者 岡山大学学術研究院医歯薬学域発達神経病態学 教授 小林勝弘
分担研究者 国立精神・神経医療研究センター小児神経科医長 齋藤貴志
 
 
 
<レノックス・ガストー症候群、ウエスト症候群、大田原症候群、早期ミオクロニー脳症、遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの診断基準>
 発達性てんかん性脳症は、それぞれ異なる疾患であり、個別の診断基準がある。
 
1)レノックス・ガストー症候群の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
 
A.症状
1.発症時期は小児期(主に8歳未満で、3~5歳が最多)
2.複数のてんかん発作型を有すること。
3.精神発達遅滞を合併する。
 
B.発作症状
1.強直発作を有すること。
2.非定型欠神発作を有すること、又は有していたこと。
3.脱力発作を有すること、又は有していたこと。
 
C.検査所見
1.脳波 睡眠中の速律動(全般性・両側対称性の10~20Hzの速波律動)と、全般性遅棘徐波(2~2.5Hz
の棘徐波・鋭徐波)を認める。
2.血液・生化学的検査所見・画像検査所見・病理所見は、特異的なものはない。
 
D.鑑別診断
ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん、非定型良性焦点てんかん、徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症、ドラベ症候群を鑑別する。
 
<診断のカテゴリー>
Definite: Aの3項目+Bの3項目+Cの1を満たすもの
Probable:Aの3項目+Bのうち2項目以上+Cの1を満たし、Dの鑑別すべき疾患を除外したもの
Possible:Aの3項目+Bのうち1項目以上+Cの1を満たし、Dの鑑別すべき疾患を除外したもの
 
※遺伝学的検査に特異的なものはない。
 
2)ウエスト症候群の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
 
A.症状
1.発症年齢は生後2歳未満(多くは3~11か月)。
2.シリーズ形成しやすい、覚醒直後に好発するてんかん性スパズム(ES):約5~40秒周期(約10秒程度が多い)で出現する極短時間の四肢の筋攣縮(座位では一瞬の頭部前屈を伴う。)がある。
3.精神運動発達の停滞ないし退行:ESの発症と前後してみられる。
 
B.検査所見
1.生理学的検査:発作間欠期脳波所見でヒプスアリスミアがみられる。
 
C.鑑別診断
乳児ミオクロニーてんかん、身震い発作、習慣性行動を鑑別する。
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの3項目とBを満たすもの
Probable:Aの3項目のうち2項目とBを満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
Possible:Aの1、2のみ満たすもの
 
3)大田原症候群の診断基準
Definiteを対象とする。
 
A.症状
生後3か月以内、特に新生児期に発症するES。焦点発作を合併することもある。
 
B.検査所見
 脳波所見:発作間欠時に覚醒時と睡眠時で持続するサプレッション・バーストパターン(ただし脳波が睡眠時しか記録できず、覚醒時にもサプレッション・バーストパターンが持続すると推測される症例は含まれうる)。

C.鑑別診断
 早期ミオクロニー脳症、ウエスト症候群を鑑別する。

<診断のカテゴリー>
 Definite:AとBを満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
 
 ※遺伝学的検査として、STXBP1ARXKCNQ2SCN2Aなどの遺伝子の変異が報告されている (ただし、遺伝子変異を認めない症例は多い)。

4)早期ミオクロニー脳症の診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
1.不規則で部分的なミオクローヌス(erratic myoclonus)が睡眠時・覚醒時ともに見られる。
2.微細な発作、自動症、無呼吸、顔面紅潮などを伴う多彩な焦点発作がみられる。
3.最重度の精神運動発達遅滞を残す。

B.検査所見
 1.生理学的検査:脳波では正常な背景活動や睡眠活動はなく、覚醒、睡眠ともにサプレッション・バーストパターンを示す。覚醒時には明瞭でなく、睡眠時にのみ見られることもある。

C.鑑別診断
新生児期の種々の脳症、大田原症候群を鑑別する。

<診断のカテゴリー>
 Definite: 生後1か月未満(まれに3か月以内)の児にAの1と2およびB1を認め、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの

※遺伝学的検査では、一定した遺伝子変異は知られていない。

5)遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの診断基準
Definiteを対象とする。

A.症状
1.発作中に発作焦点部位が移動する焦点起始発作(多くは運動発作)。
2.しばしば無呼吸、顔面紅潮、流涎などの自律神経症状を伴う。
3.発作は群発ないしシリーズをなして頻発する。
4.発症前の発達は正常であるが、重度の精神運動発達遅滞を残す。

B.検査所見
1.生理学的検査:初期にはてんかん性波はまれで、背景波が徐波化を示す。その後、多焦点性棘波が出現する。発作中には脳波焦点が対側又は同側の離れた部分に移動し、一つの発作時発射が終わる前に次の発作時発射がはじまる。

C.鑑別診断
鑑別する疾患は、新生児期のけいれん、急性脳炎・脳症、ピリドキシン依存症、ピリドキシンリン酸依存症、アルパース(Alpers)病、乳児の良性焦点てんかん、家族性又は非家族性良性新生児けいれん、家族性良性乳児けいれん、早期ミオクロニー脳症。

<診断のカテゴリー>
 Definite:生後6か月未満の児にA1とB1を認め、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの

 ※遺伝学的検査では、KCNT1、SCN1A、SCN2Aなどの変異が報告されている(ただし、認めない症例も多い)。 
 
 
 
 
<重症度分類>
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
 

「G40てんかん」の障害等級(※1)

能力障害評価(※2)

1級程度の場合

1~5全て

2級程度の場合

3~5のみ

3級程度の場合

4~5のみ

 
 
「G40てんかん」の障害等級(※1)の等級を確認し、能力障害評価(※2)の該当性を確認する。

 
※1 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分
 

てんかん発作のタイプと頻度

等級

ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合             

1級程度

イ、ロの発作が月に1回以上ある場合
ハ、ニの発作が年に2回以上ある場合             

2級程度

イ、ロの発作が月に1回未満の場合
ハ、ニの発作が年に2回未満の場合  

3級程度

 
「てんかん発作のタイプ」
イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
 
※2 精神症状・能力障害二軸評価 (2)能力障害評価
○判定に当たっては以下のことを考慮する。
①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。
②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。
 

精神障害や知的障害を認めないか、又は、精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通に出来る。
○適切な食事摂取、身辺の清潔保持、金銭管理や買い物、通院や服薬、適切な対人交流、身辺 の安全保持や危機対応、社会的手続きや公共施設の利用、趣味や娯楽あるいは文化的社会的活動への参加などが自発的に出来る、あるいは適切に出来る。
○精神障害を持たない人と同じように日常生活及び社会生活を送ることが出来る。

精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。
○「1」に記載のことが自発的あるいはおおむね出来るが、一部支援を必要とする場合がある。
○例えば、一人で外出できるが、過大なストレスがかかる状況が生じた場合に対処が困難である。 ○デイケアや就労継続支援事業などに参加するもの、あるいは保護的配慮のある事業所で、雇用契約による一般就労をしている者も含まれる。日常的な家事をこなすことは出来るが、状況や手順が変化したりすると困難が生じることがある。清潔保持は困難が少ない。対人交流は乏しくない。引きこもりがちではない。自発的な行動や、社会生活の中で発言が適切に出来ないことがある。行動のテンポはほぼ他の人に合わせることができる。普通のストレスでは症状の再燃や悪化が起きにくい。金銭管理はおおむね出来る。社会生活の中で不適切な行動をとってしまうことは少ない。

精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援 を必要とする。
○「1」に記載のことがおおむね出来るが、支援を必要とする場合が多い。
○例えば、付き添われなくても自ら外出できるものの、ストレスがかかる状況が生じた場合に対処することが困難である。医療機関等に行くなどの習慣化された外出はできる。また、デイケアや就労継続支援事業などに参加することができる。食事をバランスよく用意するなどの家事をこなすために、助言などの支援を必要とする。清潔保持が自発的かつ適切にはできない。社会的な対人交流は乏しいが引きこもりは顕著ではない。自発的な行動に困難がある。日常生活の中での発言が適切にできないことがある。行動のテンポが他の人と隔たってしまうことがある。ストレスが大きいと症状の再燃や悪化を来たしやすい。金銭管理ができない場合がある。社会生活の中でその場に適さない行動をとってしまうことがある。

精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。
○「1」に記載のことは常時支援がなければ出来ない。
○例えば、親しい人との交流も乏しく引きこもりがちである、自発性が著しく乏しい。自発的な発言が少なく発言内容が不適切であったり不明瞭であったりする。日常生活において行動のテンポが他の人のペースと大きく隔たってしまう。些細な出来事で、病状の再燃や悪化を来たしやすい。金銭管理は困難である。日常生活の中でその場に適さない行動をとってしまいがちである。

精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんど出来ない。
○「1」に記載のことは支援があってもほとんど出来ない。
○入院・入所施設等患者においては、院内・施設内等の生活に常時支援を必要とする。在宅患
者においては、医療機関等への外出も自発的にできず、付き添いが必要である。家庭生活においても、適切な食事を用意したり、後片付けなどの家事や身辺の清潔保持も自発的には行えず、常時支援を必要とする。

 
 
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

    ○診断基準
  • 伊藤進.乳児てんかん性スパズム症候群.てんかん症候群 診断と治療の手引き.日本てんかん学会(編).メディカルレビュー社,2023;26-30.
  • ○患者家族会
  • ウエスト症候群患者家族会.https://ウエスト症候群.jp/
情報提供者
研究班名 稀少てんかんの診療指針と包括医療の研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)