ファンコニ貧血(指定難病285)

ふぁんこにひんけつ
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
 染色体の脆弱性を背景に、1)進行性汎血球減少、2)骨髄異形成症候群や白血病への移行、3)身体の先天異常、4)固形がんの合併を来すことのある血液疾患である。

2.原因
 DNAの修復に働く22のファンコニ貧血原因遺伝子がこれまでに同定されている。2つを除いて常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式をとるが(例外はX染色体連鎖(FANCB)と常染色体上のデノボドミナントネガティブ変異(FANCR))、発病の機構は明らかではない。近年,DNA架橋を形成する内因性因子としてアルデヒドが注目されており、ファンコニ患者では造血幹細胞におけるアルデヒド蓄積によるゲノム障害が修復できず、骨髄不全が進行する可能性が示唆された。本邦では約90%にいずれかのファンコニ貧血原因遺伝子の変異が同定されている。

3.症状
皮膚の色素沈着、身体の先天異常、低身長、性腺機能不全を伴うが、その表現型は多様である。小児期に進行性の汎血球減少症を発症し、思春期から成人期にかけて骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病への移行がみられることが多く、成人期に頭頚部などの発がんリスクが増加する。一部のファンコニ貧血遺伝子の異常では幼小児期に小児がんや白血病を発症することがある。

4.治療法
 造血不全、造血器腫瘍に対しては造血細胞移植が唯一治癒を期待できる治療である。固形がんの化学療法は困難であり、手術療法が主体となる。身体の先天異常は外科的手術を施行する。

5.予後
 10歳までに80%以上、40歳までに90%以上の患者は、再生不良性貧血を発症する。思春期から成人期にかけて骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病への移行がみられることが多く、20歳を超えると頭頚部などの発がんリスクが増加し予後不良である。


○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(ファンコニ貧血遺伝子によるDNA損傷修復と内因性アルデヒドによるDNA損傷との関連が示唆されている)
3. 効果的な治療方法
未確立(造血不全、造血器腫瘍に対しては造血細胞移植)
4. 長期の療養
必要(進行性でありがんや身体の先天異常に伴う重症臓器障害を発症する)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり)
6. 重症度分類
後天性再生不良性貧血の重症度分類によるstage 2~stage 5を対象とする。

○ 情報提供元
「ファンコニ貧血」
研究代表者 東海大学医学部基盤診療学系先端医療科学 教授 矢部普正


<診断基準>
ファンコニ(Fanconi)貧血の診断基準
A.臨床所見
1.汎血球減少
国際ファンコニ貧血登録の血球減少基準に準じ、以下の基準のいずれかを認める。
貧血:ヘモグロビン 10g/dL未満
好中球数:1,000/µL未満
血小板:100,000/µL未満
2.皮膚の色素沈着
3.身体の先天異常:以下のいずれかを認める。
上肢:親指の欠損・低形成、多指症、橈骨・尺骨の欠損
下肢:つま先合指、かかとの異常、股関節脱臼
骨格系:小頭症、小顎症、二分脊椎、側湾症、肋骨の変形・欠損
性腺:男性:性器形成不全症、停留睾丸、尿道下裂、小陰茎
    女性:性器形成不全症、双角子宮、月経異常
眼:小眼球、斜視、乱視、白内障
耳:難聴、外耳道閉鎖、形態異常、中耳の異常
腎:低形成、欠損、馬蹄腎、水腎症
消化管:食道閉鎖、十二指腸閉鎖、鎖肛、気管食道瘻
心:動脈管開存、心室中隔欠損等種々の先天性心奇形
※何らかの異常は約80%にみられるが、多様である。
4.低身長:年齢相応身長の−2SD以下である。
5.性腺機能不全

B.検査所見
1.染色体不安定性(染色体脆弱)を示し、マイトマイシンCなどのDNA鎖間架橋薬剤で処理をすると、染色体の断裂の増強やラジアル構造を持つ特徴的な染色体が観察される。
2.FANCD2産物に対するモノユビキチン化を認めない。

C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
先天性角化不全症、シュワッハマン・ダイアモンド(Schwachman-Diamond)症候群、先天性無巨核球性血小板減少症、ピアソン症候群、色素性乾皮症、毛細血管拡張性運動失調症、ブルーム症候群、ナイミーヘン症候群、アルデヒド代謝酵素欠損症候群

D.遺伝学的検査
ファンコニ貧血遺伝子の変異(現時点でDNAの修復に働く以下の22のファンコニ貧血原因遺伝子が報告されている)
FANCA、FANCB、FANCC、FANCD1(BRCA2)、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、FANCI、
FANCJ(BRIP1)、FANCL、FANCM、FANCN (PALB2)、FANCO(RAD51C)、FANCP(SLX4)、
FANCQ(XPF)、FANCR(RAD51)、FANCS(BRCA1)、FANCT(UBE2T)、FANCU(XRCC2)、FANCV(REV7)、FANCW(RFWD3)


<診断のカテゴリー>
Definite:以下のいずれかを満たす場合をDefiniteとする。
(1)Aの1項目以上を満たし、Bの1または2を認め、Cの疾患を除外できる場合
(2)Aの1項目以上を満たし、FANCBFANCRを除くDのいずれかを両アレルで証明、あるいは男性でFANCBの変異を証明された場合

 
<重症度分類>
後天性再生不良性貧血の重症度分類によるstage 2〜stage 5を対象とする。
 

 

stage 1 

軽 症 

下記以外の場合

stage 2  

中等症 

以下の2項目以上を満たし

stage 2a. 赤血球輸血を必要としない。

stage 2b. 赤血球輸血を必要とするが、その頻度は毎月2単位未満。

 

 

網赤血球

60,000/µL未満   

 

 

好中球   

1,000/µL未満

 

 

血小板   

50,000/µL未満

stage 3                    

やや重症

以下の2項目以上を満たし、毎月2単位以上の赤血球輸血を必要とする。

 

 

網赤血球

60,000/µL未満   

 

 

好中球   

1,000/µL未満

 

 

血小板   

50,000/µL未満

stage 4     

重症

以下の2項目以上を満たす。

 

 

網赤血球

40,000/µL未満

 

 

好中球  

500/µL未満

 

 

血小板   

20,000/µL未満

stage 5

最重症

好中球 200/µL未満に加えて、以下の1項目以上を満たす。

 

 

網赤血球

20,000/µL未満

 

 

血小板 

20,000/µL未満

 
 
注1 再生不良性貧血の基準は平成10(1998)年度に設定された5段階基準を平成29(2017)年度に修正したものである。
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 遺伝性骨髄不全症の登録システムの構築と診断基準・重症度分類・診断ガイドラインの確立に関する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)