神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(指定難病125)

しんけいじくさくすふぇろいどけいせいをともなういでんせいびまんせいはくしつのうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid:HDLS)は、大脳白質を病変の主座とする神経変性疾患である。常染色体優性遺伝形式をとるが、孤発例が数多く存在する。1984年にスウェーデン家系で最初に報告されたが、世界各地に発症を認める。HDLSは、脳生検又は剖検による神経病理学的検査により従来診断されていたが、2012年にHDLSの原因遺伝子が同定されて以降は、遺伝子検査により確定診断が可能になっている。
 
2.原因
HDLSの原因遺伝子としてcolony stimulating factor-1 receptor(CSF-1R)が同定されている。HDLS患者に同定された既報の遺伝子変異は、全てチロシンキナーゼ領域に位置している。変異の種類はミスセンス変異、スプライスサイト変異、微小欠失、ナンセンス変異、フレームシフト変異がある。ナンセンス変異、フレームシフト変異例では片側のアレルのCSF-1Rが発現しないことから、HDLSの原因の1つはCSF-1Rのハプロ不全と考えられる。CSF-1Rは中枢神経ではミクログリアに強く発現しており、HDLSの病態にミクログリアの機能不全が関与していることが想定されている。しかし、CSF-1R変異がミクログリアの機能異常を介してHDLSを引き起こす詳細な機序は不明である。
 
3.症状
発症年齢は平均45歳(18~78歳に分布)であり、40歳~50歳台の発症が多い。発症前の社会生活は正常であることが多い。初発症状は認知機能障害が最も多いが、うつ、性格変化や歩行障害、失語と思われる言語障害で発症する例もある。主症状である認知機能障害は、前頭葉機能を反映した意思発動性の低下、注意障害、無関心、遂行機能障害などの性格変化や行動異常を特徴とする。動作緩慢や姿勢反射障害を主体とするパーキンソン症状、錐体路徴候などの運動徴候も頻度が高い。けいれん発作も約半数の症例で認める。
 
4.治療法
発症の機序や病態が不明であり、根本的な治療法はない。症状に応じた対症療法が行われる。
 
5.予後
進行性の経過であり、発症後の進行は速い。通常5年以内に臥床状態となる。発症から死亡までの年数は平均6年(2~29年に分布)、死亡時年齢は平均52歳(36から84歳に分布)である。
 
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
100人未満
2.発症の機構
不明(CSF-1R遺伝子変異による機序が想定される。)
3.効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4.長期の療養
必要(進行性であり、通常5年以内に臥床状態となる。)
5.診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.重症度分類
Barthel Indexを用いて85点以下を対象とする。
 
○ 情報提供元
「遺伝性脳小血管病の病態機序の解明と治療法の開発班」
研究代表者 新潟大学 脳研究所 教授 小野寺理

 
〈診断基準〉
Definite、Probable基準を満たす患者を対象とする。
 
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)の診断基準
 
主要項目
1.60歳以下の発症(大脳白質病変又は2.の臨床症状)注1
2.下記のうち2つ以上の臨床症状注2
           a.進行性認知機能障害、又は性格変化・行動異常
           b.錐体路徴候
           c.パーキンソン症状
           d.けいれん発作
3.常染色体優性遺伝形式又は孤発例注3
4.頭部CT/MRIで下記の所見を認める注4
           a.両側性の大脳白質病変
           b.脳梁の菲薄化
5.血管性認知症、多発性硬化症、白質ジストロフィー(副腎白質ジストロフィー(ALD)、異染性白質ジストロフィー(MLD)等)など他疾患を除外できる
 
支持項目
1.臨床徴候やFrontal Assessment Battery (FAB) 検査等で前頭葉機能障害を示唆する所見を認める。
2.進行が早く、発症後5年以内に臥床状態となることが多い。
3.頭部CTで大脳白質に点状の石灰化病変を認める。注4
 
除外項目
1.10歳未満の発症
2.高度な末梢神経障害の合併
3.2回以上のstroke-like episodes(脳血管障害様エピソード)。ただし、けいれん発作は除く。
 
診断のカテゴリー
【Definite】主要項目2、3、4aを満たし、CSF-1R遺伝子の変異又はHDLSに特徴的な神経病理学的所見を認める。注5
【Probable】主要項目5項目全てを満たすが、CSF-1R遺伝子変異の検索及び神経病理学的検索が行われていない。
【Possible】主要項目2-a、3及び4aを満たすが、CSF-1R遺伝変異の検索及び神経病理学的検索が行われていない。
 
 
 
補足事項
注1.発症年齢に関連して
30歳代から50歳代の発症が多い。ただし、遺伝子変異が確認された例では18~78歳と幅が広い。発症前は通常の社会生活が可能であることが多い。
注2.臨床症状に関連して
a(進行性認知症又は病初期における性格変化・行動異常)は中核症状であり、ほぼ必発である。認知症は皮質性が目立つ場合も少なくない。前頭葉機能障害を反映して、意思発動性低下、注意障害、無関心・無頓着、遂行機能障害などの性格変化や行動異常が前景に立つ。パーキンソン症状は発語・思考・動作の緩慢さが目立つ。
注3.家族歴に関連して
de novo変異による孤発例が存在する。また、家系内でも症状が多彩で家族歴を見落とす可能性がある。
注4.頭部画像に関連して
(a)白質病変は初期には散在性のことがあるが、やがて融合性、びまん性となる.前頭葉・頭頂葉優位で、かつ脳室周囲の深部白質に目立つ。(b)MRIでは、病初期から脳梁の菲薄化と信号異常を認めることが多く、検出には矢状断像を推奨する。内包などの投射線維に信号異常を認めることがある。MRI拡散強調画像で白質病変の一部に、持続する高信号病変を呈する例が存在する。ガドリニウム増強効果は通常認めない。脳小血管病で認められる側頭極病変や穿通枝領域の多発性ラクナ梗塞、多発性の微小出血は認めない。石灰化病変は、側脳室前角近傍や頭頂葉皮質下白質に両側性に認めることが多い。微小なものも少なくないため、検出にはthin-slice CTを推奨する。
注5.神経病理所見に関連して
広範な白質変性(髄鞘・軸索の崩壊)、軸索腫大(スフェロイド)、マクロファージの浸潤を特徴とする。
 
 
<重症度分類>
Barthel Indexを用いて、85点以下を対象とする。

 

質問内容

点数

食事

自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える

10

部分介助(例えば、おかずを切って細かくしてもらう)

全介助

車椅子からベッドへの移動

自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)

15

軽度の部分介助又は監視を要する

10

座ることは可能であるがほぼ全介助

全介助又は不可能

整容

自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)

部分介助又は不可能

トイレ動作

自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)

10

部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する

全介助又は不可能

入浴

自立

部分介助又は不可能

歩行

45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず

15

45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む

10

歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能

上記以外

階段昇降

自立、手すりなどの使用の有無は問わない

10

介助又は監視を要する

不能

着替え

自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む

10

部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える

上記以外

排便コントロール

失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

10

排尿コントロール

失禁なし、収尿器の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

 
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 成人発症白質脳症の実態調査とレジストリ作成の研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和5年6月)