レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症(指定難病259)

れしちんこれすてろーるあしるとらんすふぇらーぜけっそんしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症」とはどのような病気ですか

コレステロールは、体のはたらきを維持するために不可欠な成分です。一方、私たちの体はコレステロールを分解することが出来ず、使い古したコレステロールが蓄積すると体に有害な場合もあるため、これをHDLと呼ばれる粒子に乗せて血液中を肝臓へと送り、少し形を変えて体外に排出します。このHDLに運ばれるコレステロールを善玉コレステロールと呼びます。使い古したコレステロールをHDLに乗せるはたらきをするのが、LCAT(レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ)という酵素です。LCATはHDLの上でコレステロールをコレステリルエステルという形に作り変え、これがHDLへ使い古したコレステロールを積み込むのを促進するのです。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症とは、このLCATのはたらきが弱かったり、体の中で十分な量を作り出すことができなかったりする病気です。LCATのはたらきがなければ、コレステロールをコレステリルエステルに作り変えることができないため、HDLが正常にはたらくことができません。その結果、コレステロールが分解処理されずに体のいろいろな組織に蓄積されると、病気を引き起こす原因となります。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の疾患です。100万人に1人の割合でおられると報告されていますが、我が国での調査は十分ではなく患者数は不明です。

3. この病気はどのような人に多いのですか

LCAT遺伝子の変異による機能の低下が原因であり、それ以外に特定の条件を持った方に現れやすいということはないようです。

4. この病気の原因はわかっているのですか

この病気は、LCAT遺伝子の変異によって起こります。
遺伝子変異の状態によって重症になる場合とそうでない場合があります。

5. この病気は遺伝するのですか

レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症は、LCAT遺伝子の変異によるものであり、遺伝する可能性があります。私たちの遺伝子は、父親由来と母親由来の二つが一組になっています。両親由来のLCAT遺伝子のどちらにも変異がある場合にこの病気を発症します。両親由来のLCAT遺伝子のどちらにも、同じ遺伝子変異がある場合を特に「ホモ接合体」とよび、いずれか一方のみに遺伝子変異がある場合を「ヘテロ接合体」とよびます。両親がともにLCAT遺伝子の変異をヘテロ接合体として保有されている場合、1/4の確率でホモ接合体のお子さんが生まれます。ホモ接合体の患者さんと遺伝子変異のない方から生まれたお子さんは、全員ヘテロ接合体になります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症の患者さんは、LCATが十分にはたらかないため、血液中の善玉コレステロールが著しく減少してしまう(25mg/dL未満)とともに、血液中のコレステリルエステルの値が非常に低くなります。余分なコレステロールが目や腎臓などに蓄積することにより、角膜混濁(角膜が濁り、目が見えにくくなる)や腎機能障害(たんぱく尿が見られるほか、腎臓のはたらきが悪くなり、血液から老廃物を取り除けなくなる)、溶血性貧血(動悸、息切れ、めまいなどの貧血症状や黄疸を生じる)などの障害を起こします。特に、腎機能障害が進行すると、体の中に有害な物質がたまって様々な悪い影響(血圧の上昇、貧血症状、心不全、尿毒症、血液中のイオンバランスの異常など)をもたらします。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症に有効な治療法は正常なLCAT酵素の補充であると考えられます。その他では主に合併症の進行を遅らせるために食事療法(低脂肪食)や腎機能保護を目的とした薬物治療が試みられています。
   1)   食事療法
   低脂肪食により腎機能障害の進展がゆっくりになったという報告があります。
   2)   薬物治療
   1)の食事療法に加えて、腎機能の悪化の予防や改善を目的とした薬物療法が試みられています。
   3)   遺伝子組換え型hLCAT蛋白質(rhLCAT)補充療法
   欠損している酵素を点滴して治療する方法です。しかし、一生定期的に点滴治療を続けなければいけません。米国で臨床試験が実施されていましたが、現在開発は中止されています。
   4)   遺伝子治療・再生医療
   遺伝子治療では、変異のない、良く機能するLCAT遺伝子をある種の細胞に組み込むことにより持続的にhLCAT蛋白質を補充するものです。重症患者を対象として、患者さんご自身から採取した脂肪細胞を用いた遺伝子治療・再生医療が日本で臨床試験段階にあります。
   5)   臓器移植
   腎不全への腎移植治療、視力障害への角膜移植が行なわれた例はありますが、再発リスクは避けられません。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

コレステロールなどが主に腎臓や角膜に徐々に蓄積していく病気であり、腎機能の低下や角膜混濁が進行していきます。重症化するリスクの高い場合は、たんぱく尿を認めるようになり、さらに腎不全に至ります。これまでの報告では40~50歳代で腎不全に至るとされています。また、角膜混濁が進行し、角膜移植が必要となった患者さんの報告があります。ただし、遺伝子変異や患者さんによって進行の度合いは異なります。早期発見が治療やその後の経過に重要です。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

低脂肪食による食事療法がたんぱく尿の軽減に効果があるという報告があり、摂取する脂肪を制限することで腎機能障害の進行を遅らせる可能性が考えられています。
角膜混濁のため、眼が見えづらくなり、特に夜間の車の運転に支障が出る患者さんもおられるようです。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

(Lecithin cholesterol acyl transferase)LCAT 欠損症
古典型LCAT 欠損症
部分欠損型LCAT 欠損症
魚眼病

11. この病気に関する資料・関連リンク

疾患啓発ビデオ動画(千葉大学医学部附属病院作成)
LCAT欠損症について(https://youtu.be/nBwpQu1oktA)
LCAT欠損症の治療について(https://youtu.be/nT2CYqXKG98)

 

情報提供者
研究班名 原発性脂質異常症に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年10月(名簿更新:令和6年6月)