レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症(指定難病259)
○ 概要
1.概要
家族性レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(lecithin cholesterol acyl transferase:LCAT)欠損症はまれな常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患であり、現在のところ世界で80症例ほど報告されている。とりわけ、北欧や我が国での報告が多い。コレステロールのエステル化に重要な酵素 LCATの酵素欠損や活性低下により、遊離コレステロールやレシチン(フォスファチジルコリン)が増加し、その結果HDLコレステロールの著名な低下及び血清コレステロールエステル比の低下を認める。組成の変化したリポタンパクが組織に沈着することで、角膜混濁、溶血性貧血、腎機能障害などの症状を生じる。
2.原因
第16番染色体短腕に存在するLCAT遺伝子の異常が関与する。LCAT蛋白欠損により、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールの極端な低下を来す。組成の変化した異常リポタンパクが角膜・骨髄・肝・脾・腎糸球体基底膜などの組織に沈着し、泡沫細胞、組織球がみられる。大動脈や腎動脈では動脈硬化巣や内膜などへの遊離コレステロールの沈着が認められる。
3.症状
遊離コレステロールの角膜への沈着により、全例にびまん性の角膜混濁が認められる。
赤血球膜では遊離コレステロールとレシチンの増加のため膜の脆弱性が高まり、溶血による正色素性貧血を起こす。
LCAT欠損症には古典型(LCAT活性10%未満)と部分欠損型(LCAT活性15~40%)がある。古典型ではアルブミンを中心とした蛋白尿は大部分の症例で認められ、進行性の腎機能障害を呈し末期腎不全に至るが、部分欠損型では腎機能障害を認めない。また腎機能障害を来さず角膜混濁のみを呈する「魚眼病」というLCAT欠損症の一亜型も存在する。
4.治療法
現時点で確立された根治療法はなく、古典型LCAT欠損症に対して、LCAT遺伝子導入前脂肪細胞移植による遺伝子治療が研究されている。
5.予後
進行性の腎機能障害が予後を規定する。蛋白尿から始まり、40~50歳で末期腎不全に至る。角膜混濁では角膜移植が必要となる例もあり、QOLの低下が問題となる。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.発病の機構
不明(LCAT遺伝子異常が関与している。)
3.効果的な治療方法
未確立(LCAT遺伝子導入前脂肪細胞移植による遺伝子治療の臨床研究が行われた。)
4.長期の療養
必要(遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するため。)
5.診断基準
あり(原発性脂質異常症に関する調査研究班による。)
6.重症度分類
良好な方の眼の矯正視力が0.3未満又は、腎:CKD重症度分類ヒートマップが赤の部分の場合を対象とする。
○ 情報提供元
難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」
研究代表者 国立循環器病研究センター研究所分子病態部 非常勤研究員 斯波真理子
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
LCAT欠損症の診断基準
A.必須項目
1.血中HDLコレステロール値25mg/dL未満
2.コレステロールエステル比の低下(60%以下)
B.症状
1.蛋白尿または腎機能障害
2.角膜混濁
C.検査所見
1. 血液・生化学的検査所見
(1)貧血(ヘモグロビン値<11g/dL)
(2)赤血球形態の異常 (いわゆる「標的赤血球」「大小不同症」「奇形赤血球症」「口状赤血球」)
(3)異常リポ蛋白の出現(Lp-X、大型TG rich LDL)
(4)眼科検査所見:コントラスト感度の正常範囲からの逸脱
D.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
他の遺伝性低HDLコレステロール血症(タンジール病、アポリポタンパクA-Ⅰ欠損症)
続発性LCAT欠損症(肝疾患(肝硬変・劇症肝炎)、胆道閉塞、低栄養、悪液質など蛋白合成低下を呈する病態、基礎疾患を有する自己免疫性LCAT欠損症)
二次性低HDLコレステロール血症*1
(*1:外科手術後、肝障害(特に肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がん等の消耗性疾患など、過去6か月以内のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む))
E.遺伝学的検査
LCAT遺伝子の変異
<診断のカテゴリー>
必須項目の2項目を満たした例において、以下のように判定する。
Definite:B・Cのうち1項目以上を満たしDの鑑別すべき疾患を除外し、Eを満たすもの
Probable:B・Cのうち1項目以上を満たしDの鑑別すべき疾患を除外したもの
<重症度分類>
良好な方の眼の矯正視力が0.3未満又は、腎:CKD重症度分類ヒートマップが赤の部分の場合を対象とする。
腎:CKD重症度分類ヒートマップが赤の部分の場合。
CKD重症度分類ヒートマップ
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 日本動脈硬化学会(脂質異常症について)
http://www.j-athero.org/index.html