骨形成不全症(指定難病274)

こつけいせいふぜんしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
骨形成不全症(Osteogenesis imperfecta)は、全身の骨脆弱性による易骨折性や進行性の骨変形に加え、様々な程度の結合組織症状を示す先天性疾患である。発生頻度は約2~3万人に1人とされている。2019年版の骨系統疾患国際分類では、Sillenceによる1型(非変形型)、2型(周産期致死型)、3型(変形進行型)、4型(中等症型)に加えて、骨間膜石灰化・過形成仮骨を伴う型(5型)、に分類されている。

2.原因
骨形成不全症の90%以上の症例では、結合組織の主要な成分であるI型コラーゲンの遺伝子変異(COL1A1,COL1A2)により、質的あるいは量的異常が原因で発症するとされているが、I型コラーゲン遺伝子に異常を認めない症例も存在する。近年それらの遺伝子異常が続々見つかっており、FKBP10LEPRE1CRTAPPPIBSERPINH1SERPINF1BMP1IFITM5SP7TMEM38BWNT1などの異常が報告されている。遺伝形式は、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)のものと常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)のものがある。

3.症状
骨形成不全症の臨床像は非常に多彩であり、生まれてすぐに死亡する周産期致死型から、生涯にわたり明らかな症状がなく偶然発見されるものまである。
臨床症状は易骨折性、骨変形などの長管骨の骨脆弱性と脊椎骨の変形に加え、成長障害、青色強膜、歯牙(象牙質)形成不全、難聴、関節皮膚の過伸展、心臓弁の異常などである。中でも骨変形による骨痛、脊柱変形による呼吸機能障害、難聴、心臓弁(大動脈弁、僧帽弁に多い)の異常による心不全が年長期以降に生じることが多い。
骨脆弱性のために運動発達が遅延する。また骨脆弱性は成人後も継続し、妊娠・出産や加齢に関係した悪化が知られるため、生涯に渡る管理・治療が必要である。

4.治療法
 内科的治療と外科的治療に大きく分けられる。
(1)内科的治療
骨折頻度の減少を目的としてビスホスホネート製剤投与が行われる。骨折頻度の減少のみならず骨密度の増加、骨痛の改善、脊体の圧迫骨折の改善などの効果も得られている。小児ではビスホスホネート製剤としてパミドロネートの周期的静脈内投与が行われ、2014年から日本において保険適用となった。年長児や成人では、経口のビスホスホネート製剤が有効であり、近年海外より、テリパラチドの有効性も示されている。
(2)外科的治療
骨折した際に観血的骨整復術、四肢変形に対して骨切り術、長管骨の骨折変形予防を目的とした髄内釘挿入、脊柱変形に対する矯正固定手術などが行われる。
これら以外に、歯牙(象牙質)形成不全及びこれに伴う咬合異常に対する歯科的管理、難聴に対する内科的・外科的治療、心臓弁の異常による心機能低下に対する内科的・外科的治療、などが行われる。

5.予後
前述のとおり臨床像が多彩なため予後も症例によってさまざまである。Shapiroによる報告では、出生前・出生時に多発骨折があり、四肢に変形・短縮があるとほぼ全例死亡、出生前・時の骨折があり、四肢に短縮・変形がないと約6割が車いす生活、出生時までに骨折がなく歩行開始前に初回骨折があると、3分の1が車いす生活、歩行開始後に初回骨折では全例歩行可とされている。しかし、この報告以降治療法の進歩がある一方、個々の患者の機能は徐々に低下するため、画一的な予後予測は困難である。

 
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.  発病の機構
不明
3.  効果的な治療方法
未確立(根本的治療はなし。)
4.  長期の療養
必要(中等症から重症患者では、運動制限が一生続き、長期の療養が必要である。)
5.  診断基準
あり
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「重症骨系統疾患の予後改善に向けての集学的研究」
研究代表者 大阪大学大学院医学系研究科 教授 大薗惠一
日本内分泌学会、日本整形外科学会
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
骨形成不全症の診断基準
 
A.症状
1.  骨脆弱性症状(易骨折性や進行性の骨変形など)
2.  成長障害
3.  青色強膜
4.  歯牙(象牙質)形成不全
5.  難聴
6.  家族歴あり
7.  小児期に骨折歴あり
 
B.検査所見(骨レントゲン)
1.  長管骨の変形を伴う骨折
2.  変形を伴う細い長管骨
3.  頭蓋骨のウォルム骨(Wormian bone)(頭蓋骨縫合線に沿ってみられる小さなモザイク状の骨)
4.  椎骨圧迫骨折
5.  骨密度低下
 
診断のための参考基準
脆弱性骨折、易骨折性:軽微な外力での骨折、2回以上の骨折歴
成長障害:−2SD以下の低身長
歯牙形成不全:色調異常(光沢のない灰色の歯)、象牙質の損傷
難聴:30デシベル以上の低下(小さな声の会話が聞きとりにくい程度より重度)
骨密度低下:YAM値又は小児期の場合には同年齢の基準値の80%未満
 
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
・虐待児症候群
・原発性骨粗鬆症
・低ホスファターゼ症
・多骨性線維性骨異形成症
・エーラス・ダンロス(Ehlers Danlos)症候群
 
 
 
D.遺伝学的検査
1.  COL1A1COL1A2IFITM5SERPINF1CRTAPLEPRE1PPIBSERPINH1FKBP10SP7BMP1TMEM38BWNT1CREB3L1SPARCTENT5A (FAM46A)MBTPS2MESD遺伝子の変異
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aのうち3項目以上+Bのうち3項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。
または、
Aのうち4項目以上+Bのうち4項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。
Probable:Aのうち3項目以上+Bのうち2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。
Possible:Aのうち3項目以上+Bのうち2項目以上を満たしたもの。
 
 
<重症度分類>
○modified Rankin Scale(mRS)、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 

 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

まったく症候がない

自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 先天性骨系統疾患の医療水準と患者QOLの向上を目的とした研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年6月)