若年発症型両側性感音難聴(指定難病304)

じゃくねんはっしょうがたりょうそくせいかんおんなんちょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「若年発症型両側性感音難聴」とはどのような病気ですか

若年(40歳未満)で発症し両耳とも段々と進行する(聞こえが悪くなる)感音難聴を主な症状とする病気です。
若年発症型両側性感音難聴の診断には、①原因となる遺伝子(ACTG1遺伝子、CDH23遺伝子、COCH遺伝子、KCNQ4遺伝子、TECTA遺伝子、TMPRSS3遺伝子、WFS1遺伝子、EYA4遺伝子、MYO6遺伝子、MYO15A遺伝子、POU4F3遺伝子)の病的バリアント(病気の原因となる遺伝子の塩基配列の違い)が遺伝学的検査で見つかっていること、②他の原因(例えば騒音、外傷、薬剤、急性ウイルス感染)による難聴ではない事が明らかであることが必要です。
上記を満たす患者さんのうち、聞こえが良い方の耳(良聴耳)の聴力(500、1000、2000Hzの平均値)が70dB以上である方が指定難病の対象となります。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

調査研究班が2018年に実施した全国疫学調査では、全国に約720名と推計されており、人口10万人あたり0.57人程度と推定されています。また、調査研究班が日本人難聴患者10047名を対象に実施した遺伝子解析研究の結果、各遺伝子変異が原因となっている難聴者の割合は、ACTG1遺伝子が0.6%、CDH23遺伝子が0.9%、COCH遺伝子が0.5%、KCNQ4遺伝子が1.9%、TECTA遺伝子が0.9%、TMPRSS3遺伝子が0.1%、WFS1遺伝子が0.9%、EYA4遺伝子が0.5%、MYO6遺伝子が1.1%、MYO15A遺伝子が0.05%、POU4F3遺伝子が0.8%であり、いずれも比較的稀な難聴の原因であることが明らかとなっております。

3. この病気はどのような人に多いのですか

遺伝子の病的バリアントが病気の原因ですが、御家族に難聴の方がいらっしゃらない場合もあります。診断のためには、耳鼻咽喉科を受診していただき、聴力検査と遺伝学的検査を受けていただく必要があります。

4. この病気の原因はわかっているのですか

現在までに、若年発症型両側性感音難聴の原因としては、11種類の遺伝子(ACTG1遺伝子、CDH23遺伝子、COCH遺伝子、KCNQ4遺伝子、TECTA遺伝子、TMPRSS3遺伝子、WFS1遺伝子、EYA4遺伝子、MYO6遺伝子、MYO15A遺伝子、POU4F3遺伝子)の病的バリアントが原因であることが明らかになっています。この11種類の遺伝子以外にも原因となる遺伝子があると考えられており、研究が進められています。

5. この病気は遺伝するのですか

遺伝子の関与する病気ですので遺伝することがあります。ACTG1遺伝子、COCH遺伝子、KCNQ4遺伝子、TECTA遺伝子、WFS1遺伝子、EYA4遺伝子、MYO6遺伝子、POU4F3遺伝子の関与する難聴は、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとる難聴であり、両親のどちらかが難聴である場合、子供も1/2の確率で難聴を発症します。
CDH23遺伝子、TMPRSS3遺伝子、MYO15A遺伝子の関与する難聴は、常染色潜性遺伝(劣性遺伝)形式をとる難聴であり、両親が難聴でなくても、子供が難聴を発症することがあります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

若年(40歳未満)で発症し両耳とも段々と進行する(聞こえが悪くなる)難聴が主な症状です。
一般的には軽度難聴から発症し、その後、徐々に進行していきます。
難聴のタイプや聴こえの程度、難聴の進行の速さは原因遺伝子により異なりますが、下の表のような傾向があることが知られております。難聴以外の症状としては耳鳴やめまいなどを合併する例も多く、生活の質を低下させることがあります。

遺伝子名 遺伝形式 典型的な聴力型 難聴以外の症状
ACTG1 常染色体顕性遺伝 高音急墜型 耳鳴
CDH23 常染色体潜性遺伝 高音急墜型
高音漸傾型
耳鳴
COCH 常染色体顕性遺伝 高音漸傾型
水平型
反復するめまい
耳鳴
KCNQ4 常染色体顕性遺伝 高音急墜型 耳鳴
TECTA 常染色体顕性遺伝 皿型
高音漸傾型
TMPRSS3 常染色体潜性遺伝 高音急墜型
高音漸傾型
耳鳴
WFS1 常染色体顕性遺伝 低音障害型 まれに視神経萎縮、糖尿病を合併する
EYA4 常染色体顕性遺伝 高音漸傾型
水平型
MYO6 常染色体顕性遺伝 高音漸傾型
水平型
MYO15A 常染色体潜性遺伝 高音漸傾型
POU4F3 常染色体潜性遺伝 皿型(若年時)
高音漸傾型

* 高音急墜型:2000Hz〜8000Hzの高音にかけて聴き取りが急激に悪くなるタイプ
 高音漸傾型:低い音から高音にかけてだんだんと聴き取りが悪くなるタイプ
 水平型:低い音から高音まで全体的に聴き取りが悪いタイプ
 皿型:500Hz〜2000Hzの中程度の高さの聴き取りが悪いタイプ
 低音障害型:125Hz〜500Hzの低い音の聴き取りが悪いタイプ

7. この病気にはどのような治療法がありますか

現在までに難聴を根本的に治す有効な治療法は確立されておらず、聴力に応じて補聴器あるいは人工内耳(残存聴力活用型人工内耳を含む)を用いて聴こえを補う治療が行われています。
急速に進行した場合には突発性難聴などの急性感音難聴と同様に副腎皮質ステロイド、血管拡張薬、代謝賦活薬、ビタミン製剤などが用いられますが、その効果は明確ではありません。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

発症時期や程度、進行の速さは患者さんによって異なります。難聴が進行すると、日常生活や社会生活に大きな支障をきたすため、難聴の程度に応じて、補聴器や人工内耳を用いて聴力を補う治療を行います。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

「難聴が徐々に進行している」と感じた場合、早めに耳鼻咽喉科を受診し、聴力検査を受けてください。難聴の程度に応じて早期に治療(補聴器や人工内耳)を行うことが望ましいです。
両耳とも段々と進行する(聞こえが悪くなる)難聴となりますので、定期的に耳鼻咽喉科で聴力検査を行い、補聴器や人工内耳の調整を行う必要があります。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

・特発性両側性感音難聴

 

情報提供者
研究班名 難治性聴覚障害に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年11月(名簿更新:令和6年6月)