リンパ管腫症/ゴーハム病(指定難病277)

りんぱかんしゅしょう/ごーはむびょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「リンパ管腫症、ゴーハム病」とはどのような病気ですか

リンパ管腫症(りんぱかんしゅしょう)は、全身の様々な臓器にリンパ管の組織が 浸潤 (しんじゅん)する非常に稀な病気です。リンパ管はもともと中枢神経系(脳、せき髄)以外の体のあらゆる場所に存在し、体液バランスや重要な栄養を輸送する重要なパイプです。この病気はリンパ管がうまれつき異常な構造となり、骨や肺などを中心に様々な組織に浸潤し、ひどい場合は、命に関わることもあります。一方、ゴーハム病は全身の骨が溶解する疾患で、溶けた部分はリンパ管組織に置き換わります。リンパ管腫症と同じように乳び胸を起こすなど共通する点が多く、厳密に区別が出来ません。そのため、並列した病名としていますが、本来は別個の疾患です。
国内の症例数は全国調査の結果、100例程度と非常に稀(まれ)で、発症要因などに関してもわかっていません。小児、若年者に多く発症します。症状や 予後 は浸潤臓器により様々ですが、特に縦隔(じゅうかく)、肺に浸潤し、乳び胸(にゅうびきょう)による呼吸困難や窒息を起こします。また骨に浸潤し、疼痛や骨折も起こします。治療は食事療法、外科療法や内科療法を行いますが、胸部に発症した場合は治療が困難なことがあります。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

平成24、25年度に厚生労働省難治性疾患克服研究事業の「リンパ管腫症の全国症例数把握及び診断・治療法の開発に関する研究班」で全国調査を行ったところ、リンパ管腫症、ゴーハム病合わせて85例が登録されました。しかし、診断が困難なため、未診断例などもあるとされ、国内では約100例程度ではないかと推測されています。小児、若年者に多く、ほとんどが20歳までに発症すると言われています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

遺伝性は無く、どのような人に多いかということも不明です。

4. この病気の原因はわかっているのですか

リンパ管腫症もゴーハム病もリンパ管系の異常発生によるものであると考えられています。PIK3CA遺伝子の変異により、細胞の増殖や分化、生存に関わるPI3K/AKT/mTORシグナル経路の働きが活発になっていることがわかってきました。また類似したリンパ管系疾患もあり、混同や誤診されることが多いです。単発性で浸潤傾向の無い 嚢胞 性リンパ管奇形(いわゆるリンパ管腫)やリンパ管拡張症、リンパ浮腫、リンパ漏、リンパ脈管筋腫症など、他のリンパ管疾患と区別するべきです。(リンパ管腫、リンパ管腫症、ゴーハム病の違いを図に示す)


 
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5. この病気は遺伝するのですか

遺伝性はないと言われています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

多くの症例が多臓器に浸潤を認めます。症状は腫瘍の浸潤部位によります。主な症状としては、胸水、乳び胸による息切れ、咳、 喘鳴 、呼吸苦です。また骨病変は全身の骨に発生し、疼痛や病的骨折、脊椎神経の障害などを起こします。胸水が貯留すると、日常生活に支障をきたし、特に小児例は致死的になると言われています。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

残念ながら、標準的治療はありませんが、2021年9月に新しい薬物療法として、シロリムスがリンパ管腫症/ゴーハム病の治療薬として保険承認されました。その他に、インターフェロンやビスホスホネートなどの治療もありますが、これらは保険適応外の薬ですので、使用できません。局所病変に対しては、外科的切除や放射線治療、 硬化療法 が選択となります。胸水に対して胸腔穿刺、胸膜癒着術、胸管結紮術、胸腔腹腔シャント、放射線治療などを行いますが、治癒困難なことが多いです。また、栄養療法(高カロリー輸液、中鎖トリグリセリド、高タンパク食)も行いますが、治療効果は限られています。手術などで完全切除することが難しい場合が多く、完治は困難です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

どのような経過を辿るかという研究はこれまでなされていません。ほとんどの患者さんは完治しないため、症状が良くなったり、悪くなったりを繰り返すことが多いです。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

最も多い呼吸器病変では、呼吸苦や胸水や注意すること、呼吸器感染を予防することなどです。骨病変では、骨折を起こすことがあるため、運動制限が必要な場合があります。患者さん毎に浸潤している臓器や症状が違うため、それぞれで対応が異なりますので、主治医の先生と十分相談して下さい。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

びまん性リンパ管腫症
ゴーハム・スタウト症候群
大量骨溶解症

11. この病気に関する資料・関連リンク

日本血管腫血管奇形学会
http://plaza.umin.ac.jp/~jssva/index.html
 
血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022
https://issvaa.jp/wp/wp-content/uploads/2023/05/5a0c3123c7066f4f0f6978789816197b.pdf
 
国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)
http://www.issva.org/
 
血管腫・血管奇形IVR研究会
http://www.marianna-u.ac.jp/avm/
 
混合型脈管奇形の会
http://www.myakkankikei.com/
 
血管腫・血管奇形の患者会
http://www.pava-net.com
 
血管奇形ネットワーク
http://kekkankikeinw.web.fc2.com/
 
NPO法人 リンパ管腫と共に歩む会
https://www.npo-ilmn.org/
 
リンパ管疾患情報ステーション
http://www.lymphangioma.net/

 

用語解説(リンパ管腫症)

リンパ管(りんぱかん):血液を全身に行き渡らせる血管と同じように、リンパ管は全身に網の目状に広がっており、各末梢組織で生じたリンパ液を集めて血管に戻すリンパ循環を形成しています。
 
リンパ液(りんぱえき):リンパ液は血管と組織の間にある液体で、血管から漏れ出てくるタンパク質などの成分や、組織内の細胞より出てくる様々な成分、老廃物を含みます。主な細胞成分はリンパ球です。リンパ管を通じて集められ、血管に戻されます。
 
縦隔(じゅうかく):左右の肺と胸椎、胸骨に囲まれた部分をいます。縦隔には心臓をはじめとする重要な臓器が存在します。リンパ管腫やリンパ管腫症ができることがあります。
 
乳糜(にゅうび)、乳び胸(にゅうびきょう):脂肪分を多く含み乳白色をしているリンパ液のことです。腸から吸収された脂肪分やグリセリンは腸のリンパ管に入ってくるために腸管から集まってきたリンパ液は乳白色になります。
 
リンパ漏(りんぱろう):リンパ液がリンパ管から漏れ出ることです。リンパ管腫では術後に切除断端からリンパ液が漏れてくることがあり、これもリンパ漏と呼ぶことが多いです。腹腔内(お腹の中で腸の外)に漏れてリンパ液が貯まると乳糜(にゅうび)腹水といいます。胸腔内(胸の中で肺の外)に漏れる場合には乳糜胸水となります。
 
高カロリー輸液(こうかろりーゆえき)、完全静脈栄養(かんぜんじょうみゃくえいよう):高濃度の糖質や必要なアミノ酸、ビタミン、微量元素などを調合した点滴をすること。通常の末梢点滴では高濃度の糖分を入れると 血管炎 を起こすので、太い静脈(中心静脈と言います)から点滴します。乳び胸の患者さんや長期に経口摂取できない患者さんが使用します。
 
シロリムス(しろりむす):2021年に治療薬として承認された難治性リンパ管疾患の原因となる遺伝子を抑える新しい治療薬です。免疫抑制薬の一種で、口内炎やニキビなどの副作用があります。

 

情報提供者
研究班名 難治性血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形(リンパ管腫)・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月)