リンパ管腫症/ゴーハム病(指定難病277)

りんぱかんしゅしょう/ごーはむびょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
中枢神経系を除く、骨や胸部(肺、縦隔、心臓)、腹部(腹腔内、脾臓)、皮膚、皮下組織など全身臓器にびまん性に異常に拡張したリンパ管組織が浸潤する原因不明の希少性難治性疾患である。小児、若年者に多く発症するが先天性と考えられている。症状や予後は様々であるが、胸部に病変を認める場合は予後不良である。骨溶解を起こすゴーハム病も、骨病変だけでなく同様の内臓病変を持つ場合があるため、類縁疾患と考えられ、現時点では1つの疾患としてとらえられている。病理学的には不規則に拡張したリンパ管が同定されるが、内皮細胞のMIB-1は陰性で腫瘍性の増殖は無い。また鑑別上問題となるリンパ管奇形(リンパ管腫)は多くの場合病変の範囲拡大や離れた部位の新たな出現はなく、一方でリンパ管腫症は多発性・びまん性(多臓器に及ぶ、リンパ液貯留や周囲の組織に浸潤傾向があるなど)である。なおリンパ管腫症/ゴーハム病は、びまん性リンパ管腫症、ゴーハム・スタウト症候群、大量骨溶解症と呼ばれることもある。
 
2.原因
原因は不明である。遺伝性は認められていない。
 
3.症状
症状は病変の浸潤部位による。
a) 胸水(胸腔内に液体が貯留)、乳び胸、心嚢水、縦隔浸潤、肺浸潤により、息切れ、咳、喘鳴、呼吸苦、慢性呼吸不全、心タンポナーデ、心不全を起こす。胸部単純エックス線写真、CTで(両側肺に)びまん性に広がる肥厚した間質陰影や縦隔影拡大、胸水貯留、胸膜肥厚、心嚢水を認める。多くは致命的で、特に小児例は予後不良である。
b) 骨溶解、骨欠損による疼痛や病的骨折、四肢短縮、病変周囲の浮腫、脊椎神経の障害などを起こす。頭蓋骨が溶解し、髄液漏や髄膜炎、脳神経麻痺などを起こす場合もある。単純X線写真にて骨皮質の菲薄化や欠損、骨内の多発性骨溶解病変などを認める。
c) 腹水(腹腔内に液体が貯留)や脾臓内及び他の腹腔内臓器に多発性の嚢胞性リンパ管腫(リンパ管奇形)病変を認める。また皮膚、軟部組織のリンパ浮腫、リンパ漏や、血小板減少、血液凝固異常(フィブリノーゲン低下、FDP、D-dimer上昇)なども起こす。
 
4.治療法
局所病変のコントロール目的に外科的切除が行われるが、全身性、びまん性であるため、根治は困難である。胸部病変に対して胸腔穿刺、胸膜癒着術、胸管結紮術、腹部病変に対しては腹腔穿刺、脾臓摘出などの外科的治療を行う。病変部位によっては放射線治療を行うこともあるが、小児例が多く推奨されない。手術困難な病変に対しては、ステロイド、インターフェロンα、プロプラノロール、化学療法(ビンクリスチン)などが試されるが治療効果は限られる。
 
5.予後
乳び胸などの胸部病変を持つと生命予後は不良である。また病変が多臓器に渡り、様々な症状を引き起こし、慢性呼吸不全や運動機能障害などの永続的な障害を残す場合が多い。多くの症例が長期間に渡って診療が必要であり、治癒率は極めて低い。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約100人(研究班全国調査より推定)
2.  発病の機構
不明(リンパ管の発生異常と考えられている。
3.  効果的な治療方法
未確立(根本的治療はなく、対症療法が主である。)
4.  長期の療養
必要(治癒しないため、永続的な診療が必要である。)
5.  診断基準
あり(学会で承認された診断基準あり。)
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症及び関連疾患についての調査研究班」
研究代表者 聖マリアンナ医科大学放射線医学講座 病院教授 三村秀文
「リンパ管腫症の全国症例数把握及び診断・治療法の開発に関する研究班」
研究代表者 岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学 助教 小関道夫
 
 
<リンパ管腫症・ゴーハム病診断基準>
 
リンパ管腫症・ゴーハム病の診断は、(I)脈管奇形診断基準に加えて、後述する(II)細分類診断基準を追加して行う。鑑別疾患は除外する。
 
(I)脈管奇形(血管奇形及びリンパ管奇形)診断基準
軟部・体表などの血管あるいはリンパ管の異常な拡張・吻合・集簇など、構造の異常から成る病変で、理学的所見、画像診断あるいは病理組織にてこれを認めるもの。
本疾患には静脈奇形(海綿状血管腫)、動静脈奇形、リンパ管奇形(リンパ管腫)、リンパ管腫症・ゴーハム病、毛細血管奇形(単純性血管腫・ポートワイン母斑)及び混合型脈管奇形(混合型血管奇形)が含まれる。
 
鑑別診断
1.血管あるいはリンパ管を構成する細胞等に腫瘍性の増殖がある疾患
例)乳児血管腫(イチゴ状血管腫)、血管肉腫など
2.明らかな後天性病変
例)静脈瘤、リンパ浮腫、外傷性・医原性動静脈瘻、動脈瘤など
 
(II)細分類 リンパ管腫症/ゴーハム病診断基準
 
下記(1)のa)~c)のうち一つ以上の主要所見を満たし、(2)の病理所見を認めた場合に診断とする。病理検査が困難な症例は、a)~c)のうち一つ以上の主要所見を満たし、臨床的に除外疾患を全て否定できる場合に限り、診断可能とする。
 
(1)主要所見
a)骨皮質もしくは髄質が局在性もしくは散在性に溶解(全身骨に起こりうる)。
b)肺、縦隔、心臓など胸腔内臓器にびまん性にリンパ管腫様病変、又はリンパ液貯留。
c)肝臓、脾臓など腹腔内臓器にびまん性にリンパ管腫様病変、又は腹腔内にリンパ液貯留。
 
(2)病理学的所見
組織学的には、リンパ管内皮によって裏打ちされた不規則に拡張したリンパ管組織よりなり、一部に紡錘形細胞の集簇を認めることがある。腫瘍性の増殖は認めない。
 
特記事項
・除外疾患:リンパ脈管筋腫症などの他のリンパ管疾患や悪性新生物による溶骨性疾患、遺伝性先端骨溶解症、特発性多中心性溶骨性腎症、遺伝性溶骨症候群などの先天性骨溶解疾患(皮膚、皮下軟部組織、脾臓単独のリンパ管腫症は、医療費助成の対象としない。)。
・リンパ管奇形(リンパ管腫)が明らかに多発もしくは浸潤拡大傾向を示す場合には、リンパ管腫症と診断する。 
<重症度分類>
 
リンパ管腫症・ゴーハム病の重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 

 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

まったく症候がない

自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 難治性血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形(リンパ管腫)・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月)