PCDH19関連症候群(指定難病152)
○ 概要
1.概要
正常又は軽度の運動発達の遅れを有する乳幼児期の女児に、発熱・感染症等を契機にてんかんを発症する。てんかん発作は一度出現すると高率に群発し(日に何度も繰り返す。)、以降もしばしば発熱などに伴い頑固な発作群発を繰り返す疾患である。発症後は、しばしば知的障害が進行し、自閉、多動、種々の精神症状を伴うことも多い。
2.原因
X染色体長椀Xq22.1に存在するPCDH19遺伝子の異常。これまでに点変異(部位はエクソン1に集中)、遺伝子欠失が同定されている。なお、変異保因男性は基本的に健常となる。
3.症状
てんかん発作は乳児期から幼児期早期に発症する。1回の発作持続時間は短いが日に何度も繰り返し(発作群発)、各群発は日~週単位持続する。発作型は焦点性発作や全身けいれん(強直、強直間代)が主体で、ミオクロニー・欠神・脱力発作や15分以上遷延する発作は稀である。発作頻度は患者により多様であるが、多くは幼児期までが月~数か月単位と多く、その後徐々に減少し、思春期以後には寛解する例が多い。発作間欠期脳波ではしばしば焦点性棘波や鋭波、基礎波や背景活動の徐波化がみられる。
4.治療法
有効な治療法は確立していない。てんかん発作に対しては発作型に対応した種々の抗てんかん薬が用いられるが効果は乏しい。発作群発の抑制には、しばしばベンゾジアゼピン系薬剤が有効である。
5.予後
てんかん発作は思春期以降に寛解することが多いが、一部の患者では成人期にも継続して出現する。また、しばしば種々の程度の知的障害(軽度~重度)や、自閉、多動、様々な精神症状を合併し、発作寛解後も社会生活上で大きな問題となる。運動発達は初期に遅れることもあるが、長期的には良好である。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(PCDH19遺伝子異常によるが、PCDH19の正確な機能や、疾患発症の機構は不明。)
3. 効果的な治療方法
未確立(てんかん発作に対する対象療法のみである。)
4. 長期の療養
必要(てんかん発作はしばしば10歳台まで出現し、その後も知的障害・行動異常などが残存する。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6. 重症度分類
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級 |
能力障害評価 |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
○ 情報提供元
「希少てんかんに関する包括的研究」
研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 客員研究員 井上有史
研究分担者 福岡大学小児科 准教授 石井敦士
<診断基準>
確定診断された例(Definite)を対象とする。
PCDH19関連症候群の診断基準
A.症状(下記の特徴、特に1~5を満たす場合、本症を疑う)
1. 女児
2. 乳児期から幼児期前半にてんかん発作を発症。
3. 繰り返す発作群発
4. しばしば発熱や感染症が発作再発の契機となる。
5. 発作型は焦点性発作、全身けいれんが主体。
6. 家族例では女性にのみ発症する特異な分布がみられ、男性は健常である。
7. 知的障害、種々の精神神経症状(自閉、多動など)
B.検査所見
1. 血液・生化学的検査所見に特異的なものはない。
2. 頭部CT/MRIは基本的に正常(軽微な萎縮、形成異常など非特異的な変化を伴うこともある。)
3. 生理学的所見:発作間欠期脳波ではしばしば焦点性棘・鋭波や基礎波・背景活動の徐波化を認める。
C.鑑別診断
PCDH19遺伝子に病的異常が同定されれば診断は確実であるが、臨床的にはSCN1A遺伝子異常に伴うドラベ(Dravet)症候群、脳炎・脳症、良性乳児部分てんかん、軽症胃腸炎関連けいれん、など発作群発を呈する疾患が鑑別となる。
D.遺伝学的検査
PCDH19遺伝子解析で変異を同定
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの症状及びBの3から本症を疑い、Dの遺伝子異常を認めれば診断確定となる。
<重症度分類>
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級(※1) |
能力障害評価(※2) |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
「G40てんかん」の障害等級(※1)の等級を確認し、能力障害評価(※2)の該当性を確認する。
※1 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分
てんかん発作のタイプと頻度 |
等級 |
ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合 |
1級程度 |
イ、ロの発作が月に1回以上ある場合 |
2級程度 |
イ、ロの発作が月に1回未満の場合 |
3級程度 |
「てんかん発作のタイプ」
イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
※2 精神症状・能力障害二軸評価 (2)能力障害評価
○判定に当たっては以下のことを考慮する。
①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。
②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。
1 |
精神障害や知的障害を認めないか、又は、精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通に出来る。 |
2 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。 |
3 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援 を必要とする。 |
4 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。 |
5 |
精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんど出来ない。 |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- PCDH19 allianceのホームページ(英語)
http://www.pcdh19info.org/pcdh19-epilepsy/ - 倉橋宏和.PCDH19関連症候群.てんかん症候群 診断と治療の手引き.
日本てんかん学会(編).メディカルレビュー社,2023;239-242.