ペリー病(指定難病126)
○ 概要
1.概要
ペリー(Perry)病は非常にまれな常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性の神経変性疾患である。本疾患は1975年にPerryらにより家族性のうつ症状及びパーキンソニズムを伴う常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性疾患として報告され、現在まで欧米諸国や本邦から同様の家系が報告されている。臨床症状としては40歳代で発症と若年で発症し、比較的急速に進行するパーキンソニズムと体重減少に加えて、うつ症状、アパシー、脱抑制といった精神症状を認める。また、特徴的な症状として中枢性の低換気や無呼吸がある。治療法としてはパーキンソニズムに対してL-ドパ製剤などのパーキンソン病治療薬や抗うつ薬、低換気に対して人工呼吸器による呼吸管理など対症療法しかなく、根治療法はない。
2.原因
原因遺伝子として、2009年にFarrerらによってdynactinタンパクをコードするDCTN1のexon 2に変異があることが突き止められており、この遺伝子変異により本疾患が発症する事が明らかになっている。また、筋萎縮性側索硬化症などと同様にTAR DNA-binding protein 43 (TDP-43) プロテイノパチーに分類される。dynactinがTDP-43に結合すること、その相互作用の制御異常がTDP-43の誤局在化と凝集化を引き起こす可能性が明らかになっているが、本疾患の発症機序について不明な点が多い。
3.症状
ペリー(Perry)病は非常にまれであるが、世界的に広い地域から報告されている。なかでも本邦からの報告は比較的多く、そのうちの多くは九州地方からの報告である。九州地方の家系はいずれも創始者効果は認められておらず、独立して発症した家系である。どの家系もおおむね40代から50代前半にパーキンソニズム又はうつ症状や無気力などの精神症状で発症する。パーキンソニズムに対してはL-ドパ製剤が有効であることも多く、L-ドパ誘発性ジスキネジアやウェアリングオフの合併をみとめる症例も報告されている。孤発性パーキンソン病と区別することが時に困難なこともある。しかし、発症早期より体重減少がみられ、さらには呼吸障害が出現する。この呼吸障害は中枢性の低換気であり、頻呼吸、睡眠中の不規則呼吸、呼吸停止などが出現する。呼吸障害に対する治療薬はなく、持続陽圧呼吸療法による効果も一時的であり人工呼吸器による長期サポートが必要である。
4.治療法
運動症状については症例によって初期はL-ドパによる対症療法が有効である。しかし、有効性を認めない症例もあり、効果があっても症状の進行が早く一時的で不十分である。呼吸障害に対しては人工呼吸器による長期サポートが必要であり気管切開が必要となる。根治療法は現在のところ報告されていない。
5.予後
予後は2年から26年と症例によってばらつきはあるが、おおむね3年から5年で肺炎などの合併症により死亡することが多い。しかし、一部の症例は精神症状による自殺や中枢性呼吸障害に伴う突然死を生じることがある。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(DNTC1遺伝子変異によるが、この遺伝子変異がどのように発症機序に関わるかは不明。)
3. 効果的な治療方法
未確立(対症療法のみ)
4. 長期の療養
必要(呼吸不全、運動機能障害が認められるため長期の療養が必要。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の国際診断基準あり。)
6. 重症度分類
以下のいずれかを満たす場合を対象とする。
① Hoehn-Yahr重症度分類を用いて3度以上。
② modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上。
○ 情報提供元
福岡大学医学部脳神経内科 三嶋崇靖 坪井義夫
<診断基準>
ペリー(Perry)病の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
A症状
主要症状(家族歴を含む)
1.パーキンソニズム(運動緩慢、筋強剛、姿勢時振戦を含む振戦、姿勢保持障害のうち2つ以上の症状)
2.アパシー、又はうつ
3.低換気や無呼吸などの呼吸障害(心疾患や呼吸器疾患に伴わない症状)
4.原因不明の体重減少
5.パーキンソニズムの家族歴、又は中枢性の低換気や無呼吸の家族歴
支持症状
1. 5年以内の急速な神経症状の進行
2. 50歳未満の発症
B 遺伝子検査
DCTN1 遺伝子の変異
C鑑別診断
パーキンソン病、進行性核上性麻痺、MAPT変異を伴う前頭側頭葉変性症など
<診断のカテゴリー>
Definite:A主要症状の1と5、Bを認めること。
Probable:A主要症状のすべての項目を満たし、Cを除外したもの。
Possible:A主要症状の1と5、かつA支持症状の1又は2を認めること。
D参考項目
症状
1. 認知機能障害
2. 前頭葉症状
3. 眼球運動障害(垂直性の眼球運動制限など)
4. 自律神経障害
5. 睡眠障害
検査所見
1. 頭部MRI/CT は正常もしくは前頭側頭葉の萎縮
2. ドパミントランスポーターシンチグラフィで線条体への取り込み低下
3. MIBG 心筋シンチグラフィでMIBG の心筋への取り込み低下
4. 脳血流シンチグラフィで前頭側頭葉の血流低下
5. 神経病理学的検討で黒質の神経細胞死とTDP-43病理(主に脳幹や基底核の神経細胞質内のTDP-43陽性の凝集体、神経細胞核やグリア細胞にもTDP-43陽性凝集体が認められる。)
<重症度分類>
以下の①、②のいずれかを満たす場合を対象とする。
①Hoehn-Yahr重症度分類を用いて3度以上。
②modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上。
①Hoehn-Yahr重症度分類
1度 一側性障害のみ.通常、機能障害は軽微又はなし。 |
②modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書 |
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modified Rankin Scale |
参考にすべき点 |
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0 |
全く症候がない |
自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である |
1 |
症候はあっても明らかな障害はない: |
自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である |
2 |
軽度の障害: |
発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である |
3 |
中等度の障害: |
買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である |
4 |
中等度から重度の障害: |
通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である |
5 |
重度の障害: |
常に誰かの介助を必要とする状態である |
6 |
死亡 |
日本脳卒中学会版
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。