シトステロール血症(指定難病260)
○ 概要
1.概要
シトステロール血症は、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)をとる遺伝性脂質代謝異常であり、果物や野菜に含まれる植物ステロールの一種であるシトステロールの排泄低下により血中又は組織にシトステロールが蓄積し、黄色腫や早発性冠動脈疾患といった臨床症状を呈する疾患である。
2.原因
シトステロール血症は、ATP結合カセットトランスポーター(ABC)G5/8の遺伝子変異が病態形成に関与する。食物中に含まれるステロール類は、小腸のステロール輸送蛋白NPC1L1により吸収される。小腸上皮内でコレステロールはエステル化されカイロミクロン形成の材料となるが、利用されない植物ステロールはABCG5/8を介して腸管内へと排泄される。本症ではABCG5/8遺伝子変異に伴う機能異常によって植物ステロールの排泄が障害され、体内に蓄積する。蓄積した植物ステロール(多くはシトステロール)は皮膚や腱などの組織に沈着し黄色腫を形成、また血管壁に蓄積して動脈硬化プラークを形成する。
3.症状
皮膚・腱黄色腫、早発性冠動脈疾患を呈する。本症での動脈硬化プラークには植物ステロールの蓄積が確認されている。異常赤血球、溶血発作、血小板減少、関節炎などがみられることもある。
4.治療法
根治療法はなく、対症療法のみである。
・食事療法として、植物ステロールを多く含む食品(植物性オイル、マーガリン、ナッツ、アボカド、チョコレートなど)や貝類を極力避ける。それ以外の野菜・果物は摂取可能である。しかし食事療法による効果が得られない例も散見される。
・薬物療法としてエゼチミブ(小腸からのステロール吸収蛋白NPC1L1受容体の阻害薬)、コレスチミド(陰イオン交換樹脂でステロール吸収を抑制する)などがある。
・外科的治療法として、小腸におけるステロール吸収面積を低下させる部分的回腸バイパス手術がある。
・プラズマフェレシスが一部有効との報告もある。
・上記基本治療後(食事療法・薬物療法)を実施してもLDLコレステロール値の低下効果が不十分な場合にはスタチンの投与を考慮する。
5.予後
早発性冠動脈疾患により生命予後が規定され、不良となることが多い。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満(遺伝学的には本邦で650人程度存在する可能性がある)
2. 発病の機構
不明(ABCG5/8遺伝子異常の関与が示唆されている。)
3. 効果的な治療方法
未確立(食事療法(植物ステロール制限)、薬物療法(エゼチミブ、コレスチミド)、部分的回腸バイパス術、プラズマフェレシスなど。)上記基本治療(食事療法・薬物療法)を実施してもLDLコレステロール値の低下効果が不十分な場合にはスタチンの投与を考慮する。
4. 長期の療養
必要(遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するため。)
5. 診断基準
あり(原発性脂質異常症に関する調査研究班による。)
6. 重症度分類
先天性代謝異常症の重症度評価で、中等症以上を対象とする。
○ 情報提供元
難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」
研究代表者 国立循環器病研究センター研究所分子病態部 非常勤研究員 斯波真理子
<診断基準>
シトステロール血症の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
A.症状
1. 皮膚黄色腫又は腱黄色腫の存在
2. 早発性冠動脈疾患(男性45歳未満、女性55歳未満)
B.検査所見
1.血液・生化学的検査所見
血清シトステロール濃度 1mg/dL(10μ g/mL)以上
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
家族性高コレステロール血症、脳腱黄色腫症
D.遺伝学的検査
ABCG5/8遺伝子の変異
<診断のカテゴリー>
Definite:A-1及びB-1を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの
Probable:A-1及びB-1を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
Possible:A-1、2及びB-1を満たすもの
補足事項:
高LDLコレステロール血症を呈したシトステロール血症では、コレステロール吸収阻害薬(エゼチミブ、コレスチミド)が著効する点が家族性高コレステロール血症と異なる。
<重症度分類>
先天性代謝異常症の重症度評価で、中等症以上を対象とする。
先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)(一部改変)
点数
I |
薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する) |
|
a |
治療を要しない |
0 |
b |
対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している |
1 |
c |
疾患特異的な薬物治療が中断できない |
2 |
d |
急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする |
4 |
II |
食事栄養治療の状況(a、bいずれか1つを選択する) |
|
a |
食事制限など特に必要がない |
0 |
b |
軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である |
1 |
|
*当該疾患についての食事栄養治療の状況はa又はbとする。 |
|
III |
酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する) |
|
a |
特に異常を認めない |
0 |
b |
軽度の異常値が継続している (目安として正常範囲から1.5SDの逸脱) |
1 |
c |
中等度以上の異常値が継続している (目安として1.5SDから2.0SDの逸脱) |
2 |
d |
高度の異常値が持続している (目安として2.0SD以上の逸脱) |
3 |
IV |
現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する) |
|
a |
異常を認めない |
0 |
b |
軽度の障害を認める (目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害) |
1 |
c |
中程度の障害を認める (目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害) |
2 |
d |
高度の障害を認める (目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態) |
4 |
V |
現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する) |
|
a |
肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない |
0 |
b |
肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある |
1 |
c |
肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある |
2 |
d |
肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である |
4 |
VI |
生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する) |
|
a |
自立した生活が可能 |
0 |
b |
何らかの介助が必要 |
1 |
c |
日常生活の多くで介助が必要 |
2 |
d |
生命維持医療が必要 |
4 |
総合評価
IからVIまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。 |
|
(1)4点の項目が1つでもある場合 |
重症 |
(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合 |
重症 |
(3)加点した総点数が3-6点の場合 |
中等症 |
(4)加点した総点数が0-2点の場合 |
軽症 |
注意
1 |
診断と治療についてはガイドラインを参考とすること |
2 |
疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。