両大血管右室起始症(指定難病216)

りょうだいけっかんうしつきししょう
 

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○ 概要
 
1.概要
両大血管右室起始症は、1) 大動脈と肺動脈の2つの大血管のうち、どちらか一方の大血管が完全に右心室から、さらに他方の大血管も50%以上が右心室から起始し、2) 後方大血管の半月弁と房室弁の間に筋性組織(心室漏斗部鄒壁)が存在する疾患である(図1)。分類として、大血管の位置関係により、正常大血管型(後方の大動脈が心室中隔に騎乗するタイプ)と大血管転位型(後方の肺動脈が心室中隔に騎乗するタイプ)に分けられる。また心室中隔欠損孔の位置によって、1) 大動脈弁下型心室中隔欠損、2) 肺動脈弁下型心室中隔欠損、3) 両大血管型心室中隔欠損、4) 遠隔型心室中隔欠損に分類される。
両大血管の位置関係、両大血管と心室中隔欠損、及び漏斗部中隔と心室中隔との空間的な位置関係により、広いスペクトラムを示す疾患群である。

図1左:両大血管右室起始症(正常大血管型、大動脈弁下心室中隔欠損型)、図1右:両大血管右室起始症(大血管転位型、肺動脈弁下心室中隔欠損型
 
2.原因
両大血管右室起始症は円錐動脈幹中隔のらせん形成や円錐口の左方移動の障害により発症すると考えられているが、この疾患を引き起こす特定の遺伝子異常は現在のところ明らかではない。
 
3.症状
正常大血管型の両大血管右室起始症においては、右室流出路の狭窄がない場合は高肺血流による心不全症状が主体となる。右室流出路から肺動脈狭窄を伴う場合、ファロー四徴症に類似した血行動態となり、様々な程度のチアノーゼが見られる。大血管転位型ではチアノーゼと心不全症状が混在する。肺動脈狭窄を伴うと心不全症状は軽く、高度のチアノーゼが見られる。心エコー検査にて、心室中隔欠損とともに、肺動脈と大動脈の両大血管のうち、どちらか一方の大血管が右室から完全に起始しており、他方の大血管が50%以上右室から起始している所見を認める。心室中隔欠損が存在する。通常、僧帽弁と半月弁の間には線維性連続は認められない。大血管と心室中隔との位置関係から、正常大血管型、大血管転位型を診断する。漏斗部中隔の偏位により肺動脈狭窄や大動脈弁下狭窄を合併することがある。心臓カテーテル・造影所見で、心室中隔欠損とともに、肺動脈と大動脈の両大血管のうち、1つは右室から完全に起始し、他の1つが50%以上右室から起始している所見を認める。心室中隔欠損が存在する。肺動脈狭窄を伴う場合には右室と肺動脈間に圧較差を認める。
 
4.治療法
両大血管右室起始症のスペクトラムは広く、大血管と心室中隔及び漏斗部中隔の位置関係と、各症例の病態に応じて様々な外科手術法が選択される。
正常大血管型で肺動脈狭窄を伴わない場合は、乳児期に心内修復術(心内導管を用いた心室内血流転換術)が行われる。正常大血管型で右室流出路及び肺動脈狭窄が高度な場合は、ファロー四徴症に準じて、適切な時期(新生児期から乳児期前半)にBTシャント手術を行い、肺血流量を増やしてチアノーゼを改善させるとともに左心室容積を発達させ、1歳前後に右室流出路拡大形成術及び心内修復術(心内導管を用いた心室内血流転換術)を行う。
大血管転位型で肺動脈狭窄がない場合は、完全大血管転位のII型に準じて心室内血流転換術を伴う動脈スイッチ手術を行う。肺動脈狭窄を伴う場合は、通常Rastelli手術が選択される。
右室容積が狭小で心室内血流転換が困難な遠隔型心室中隔欠損症例では2心室修復を行わず、単心室循環としてGlenn手術及びFontan手術を実施する。
 
5.予後
両大血管右室起始では、患者の解剖学的異常に応じて実施された手術術式により予後が左右される。
正常大血管型で右室流出路狭窄により右室流出路拡大形成術やRastelli手術を行った症例では、ファロー四徴症の予後に準じ、遠隔期、特に成人期では、術後遺残症としての肺動脈弁狭窄及び閉鎖不全による右室拡大、右室機能不全、二次的な三尖弁閉鎖不全、心室及び心房不整脈の出現が問題となる。MRI検査で右室容積を計測し、右心機能不全が不可逆的になる以前に右室流出路再建術を実施する。
大血管転位型で大血管転換術を行った症例では、概ね完全大血管転位症の動脈スイッチ手術の予後に準じる。肺動脈狭窄によりRastelli手術を行った症例では、肺動脈弁狭窄・閉鎖不全の遺残が問題となる。
遠隔型心室中隔欠損でFontan型手術を行った症例では、他の単心室循環疾患の予後に準じる。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
165人
2.発病の機構
不明
3.  効果的な治療方法
未確立(手術療法も含め根治療法はない。)
4.  長期の療養
必要
5.  診断基準
あり(学会作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
NYHA心機能分類II度以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
日本小児循環器学会、日本成人先天性心疾患学会、日本循環器学会

厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
「先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の救命率の向上と生涯にわたるQOL改善のための総合的研究」研究班
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。

<診断のカテゴリー>
Definite: 心エコー検査、又は心臓カテーテル・造影検査で、両大血管のうち、どちらか一方の大血管が右室から完全に起始しており、他方の大血管が50%以上右室から起始している所見を認める場合を両大血管右室起始症と診断する。
※通常、僧帽弁と半月弁の間には線維性連続は認められない。
 
 
 
<重症度分類>
 NYHA心機能分類II度以上を対象とする。
 
NYHA分類

 

I度

心疾患はあるが身体活動に制限はない。
日常的な身体活動では疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは
狭心痛(胸痛)を生じない。

II度

軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。
日常労作のうち、比較的強い労作(例えば、階段上昇、坂道歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

III度

高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。
日常労作のうち、軽労作(例えば、平地歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

IV度

心疾患のためいかなる身体活動も制限される。
心不全症状や狭心痛(胸痛)が安静時にも存在する。
わずかな身体活動でこれらが増悪する。

NYHA: New York Heart Association
 
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。

NYHA分類

身体活動能力
(Specific Activity Scale; SAS)

最大酸素摂取量
(peakVO2

I

6METs以上

基準値の80%以上

II

3.5~5.9 METs

基準値の60~80%

III

2~3.4 METs

基準値の40~60%

IV

1~1.9 METs以下

施行不能あるいは
基準値の40%未満

※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
 
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の救命率の向上、円滑な移行医療、成人期以降の予後改善を目指した総合的研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年7月)