心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症(指定難病214)

しんしつちゅうかくけっそんをともなうはいどうみゃくへいさしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
ファロー四徴症類縁疾患とは、心臓流出路の形成異常によりファロー四徴症に類似する血行動態をとる疾患群であり、ファロー四徴症(肺動脈弁欠損を伴うファロー四徴症を含む)、心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症が含まれる。
ファロー四徴症は、①肺動脈狭窄、②心室中隔欠損、③大動脈騎乗、④右室肥大を四徴とする疾患である(図1)。胎生初期に肺動脈と大動脈をらせん状に2分割する円錐動脈幹中隔が、前方に偏位することで発症する。その結果、肺動脈(前方血管)は狭小化し、大動脈(後方血管)は拡大して心室中隔に騎乗(馬乗り状態)し、前方へ偏位した漏斗部中隔と筋性部心室中隔との間に、空間的なズレによる大きな心室中隔欠損が発生する。その結果、左右心室は等圧になり、右室は肥大する。ファロー四徴症では、漏斗部中隔の前方偏位の程度により、一連のスペクトラムの病態が見られる。通常、右室流出路狭窄により心室中隔欠損孔を介した右-左シャントが生じ、チアノーゼが見られる。最も前方に偏位した場合、肺動脈は起始部で閉鎖し、心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖(極型ファロー四徴症)となる(図2)。逆に前方偏位が軽度な場合、チアノーゼは見られず、左-右シャントによる心不全症状をきたす(ピンクファロー)。ファロー四徴症の典型例はこれらの中間に位置し、前方偏位の程度により幅広い病態を呈する。ファロー四徴症の15-20%は22q11.2欠失症候群に合併する。
心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症で主肺動脈が低形成もしくは欠損する場合、肺血流は下行大動脈から分岐する胎生期の分節間動脈である主要体肺側副動脈(MAPCA)により灌流される。MAPCAによる肺血流の分布は不均一であり、手術治療が難渋する予後不良の疾患である。約30%は22q11.2欠失症候群に合併する。
ファロー四徴症には稀に(約2%)肺動脈弁欠損を合併することがある。肺動脈弁の遺残物による肺動脈狭窄と重度の閉鎖不全が生じ、出生前から主肺動脈及び左右肺動脈中枢部が著しく拡大する疾患である。出生後には左-右シャントによる心不全とともに、拡大した肺動脈が気管を圧迫して気道閉塞症状をきたす。

図1:ファロー四徴症

図2:心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症

2.原因
いずれの疾患も原因の詳細は不明である。ファロー四徴症及び心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症では、二次心臓領域の心筋細胞と、頚部神経堤から遊走する心臓神経堤細胞(間葉系細胞)の相互作用が障害を受けて発症すると考えられている。22q11.2欠失症候群では、二次心臓領域細胞の増殖と動員に重要なTBX1遺伝子の欠失が関与し、右室流出路の心臓大血管病変を引き起こすと考えられている。
 
3.症状
未修復のファロー四徴症の臨床症状は、漏斗部中隔の前方偏位に伴う右室流出路及び肺動脈狭窄の程度により規定される。狭窄が強く肺血流量が少ないと、チアノーゼ、ばち状指、易疲労、運動能低下などを認める。一方、狭窄の程度が軽い場合、ファロー四徴症でも肺血流量が多くなり、多呼吸、陥没呼吸、易疲労、体重増加不良などの心不全症状を引き起こす(ピンクファロー)。また、乳児期早期には狭窄が軽く左-右シャントであっても成長とともに右室流出路狭窄が進行して右-左シャントになり、チアノーゼや低酸素発作を繰り返すことがある。貧血や脱水はチアノーゼや低酸素発作を助長する。心エコー検査にて心室中隔欠損とともに大動脈が心室中隔に対して騎乗する所見を認め、さらに大動脈後壁と僧帽弁前尖の線維性連続は保たれる。漏斗部、肺動脈弁、肺動脈主幹部の狭窄を認める。基本病態である右室流出路狭窄には種々の程度があり、これにより重症度も異なる。すなわち、狭窄が軽度の場合には心室中隔欠損レベルでの右-左短絡(右室の静脈血が左室の動脈血に混じる状態)は少なくチアノーゼも目立たない。しかし、狭窄が強度だと右左短絡が顕著で肺血流そのものも少ないためにチアノーゼは強くなる。心臓カテーテル・造影所見では、収縮期右室圧は、左室・大動脈圧と等しい。肺動脈圧は正常もしくはやや低圧である。
心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症では、出生直後よりチアノーゼが見られる。動脈管が閉鎖すると致死的となる。
 
4.治療法
ファロー四徴症では、右室流出路及び肺動脈狭窄の程度が肺血流量を規定し、末梢肺動脈と左心室容積の発達に影響する。したがって、肺動脈狭窄が高度な症例では、適切な時期(新生児期から乳児期前半)にBTシャント手術を行い、肺血流量を増やしてチアノーゼを改善させるとともに、左心室容積を十分に発達させ、1歳前後に行われる心内修復術に備える。鉄剤や輸血による貧血の改善、十分な水分補給による脱水の予防も重要である。
心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症では、肺血流は動脈管に依存する。出生直後からプロスタグランディンE1製剤の持続点滴により動脈管を開存させ、その後、乳児期後期にBTシャント手術を実施する。本疾患は動脈管依存性の心疾患であるため、酸素を投与すると動脈管が閉鎖するので、酸素投与は行わない。
ファロー四徴症も心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症も、末梢肺動脈及び左心室が十分に発達する1歳前後に、心室中隔欠損孔閉鎖及び右室流出路拡大術(もしくはラステリ手術)を行う。多くのMAPCAが発達した心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症では、乳児期中後期にMAPCAを束ねて主肺動脈もしくは人工血管を介して右室流出路に吻合する肺動脈統合術(unifocalization手術)が行われる。約1年後に肺血流分布が改善したら、心室中隔欠損閉鎖術を行う。最重症例ではMAPCA自体も低形成であり、肺動脈統合術の適応がない場合もある。
 
5.予後
ファロー四徴症典型例での外科的治療後の生命予後は改善し、現在では術後30年の生存率は98%と報告されている。しかしながら、右室流出路拡大術後やラステリ手術後の遠隔期、特に成人期では、術後遺残症としての肺動脈弁狭窄及び閉鎖不全による右室拡大、右室機能不全、二次的な三尖弁閉鎖不全、心室及び心房不整脈の出現が問題となる。40歳以降で右心不全が悪化した場合、二次的に左心不全をきたすこともある。MRI検査による右心室容積を目安として、右心不全が不可逆的となる以前に右室流出路再建術を行う。難治性不整脈に対しては、薬剤療法とともにカテーテルアブレーションが行われる。一部の症例では経カテーテル的再肺動脈弁置換術も選択される。
心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症におけるラステリ手術後では、導管のサイズや人工弁の狭窄閉鎖不全の問題から成人期までに再手術を行うことが多く、また成人期以降もファロー四徴症と同様な遠隔期の肺動脈狭窄及び閉鎖不全に伴う右室機能不全や不整脈の問題が発生する。
肺血流の大部分をMAPCAに依存する心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症では、MAPCAが屈曲蛇行して進行性の狭窄を伴うとともに、術後の末梢肺動脈狭窄が避けられないため、複数回のカテーテル治療や再手術による介入が必発となる。肺動脈統合術後も均一でスムーズな肺循環を維持することは困難であり、予後は良好ではない。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
214. 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 100人未満
215. ファロー四徴 519人
2.  発病の機構
不明
3.  効果的な治療方法
未確立(手術療法も含め根治療法はない。)
4.  長期の療養
必要
5.  診断基準
あり(学会作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
NYHA心機能分類II度以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
日本小児循環器学会、日本成人先天性心疾患学会、日本循環器学会

厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
「先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の救命率の向上と生涯にわたるQOL改善のための総合的研究」研究班
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
(ファロー四徴症類縁疾患は、心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症、ファロー四徴症の総称である。以下の1、2と診断された場合を対象とする。)

1.心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症
ファロー四徴症の肺動脈狭窄の最重症型で、肺動脈弁閉鎖となった場合をいう。極型ファロー四徴症と呼称することがある。
診断基準は、ファロー四徴症にほぼ準じるが、右室から肺動脈への血流を認めず、動脈管ないし大動脈から起始する主要体肺動脈側副動脈(MAPCA)から肺動脈への血流を認める。

 <診断のカテゴリー>
 Definite: 心エコー検査又は心臓カテーテル・造影検査で、心室中隔欠損、大動脈騎乗、肺動脈閉鎖の全てを認める場合に、心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症と診断する。

2.ファロー四徴症
心室中隔欠損、右室流出路狭窄、大動脈騎乗、右室肥大を呈する先天性心疾患である。僧帽弁と大動脈弁は線維性に連続している。肺動脈狭窄の程度により幅広い臨床像を示すが、不安定かつ進行性低酸素血症を特徴とする。

 <診断のカテゴリー>
 Definite: 心エコー検査又は心臓カテーテル・造影検査で、心室中隔欠損、大動脈騎乗、右室流出路狭窄の全てを認める場合をファロー四徴症と診断する。


<重症度分類>
 NYHA心機能分類II度以上を対象とする。
 
NYHA分類

 

I度

心疾患はあるが身体活動に制限はない。
日常的な身体活動では疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは
狭心痛(胸痛)を生じない。

II度

軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。
日常労作のうち、比較的強い労作(例えば、階段上昇、坂道歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

III度

高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。
日常労作のうち、軽労作(例えば、平地歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

IV度

心疾患のためいかなる身体活動も制限される。
心不全症状や狭心痛(胸痛)が安静時にも存在する。
わずかな身体活動でこれらが増悪する。

NYHA: New York Heart Association
 
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。

NYHA分類

身体活動能力
(Specific Activity Scale; SAS)

最大酸素摂取量
(peakVO2

I

6METs以上

基準値の80%以上

II

3.5~5.9 METs

基準値の60~80%

III

2~3.4 METs

基準値の40~60%

IV

1~1.9 METs以下

施行不能あるいは
基準値の40%未満

※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
 
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の救命率の向上、円滑な移行医療、成人期以降の予後改善を目指した総合的研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和6年7月)