総動脈幹遺残症(指定難病207)

そうどうみゃくかんいざんしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 総動脈幹遺残症とは?

一般的に大きな心室中隔欠損を有し、左右両心室から単一の総動脈幹に血液を送り出すことで、大動脈、肺動脈、および冠動脈に血液を供給する 先天性 心疾患です(図1)。生まれて間もなくから著しく肺血流が増え、また総動脈幹弁が形態異常を伴う4尖や6尖から形成され、強い逆流を伴うことが多く、新生児期より重い心不全症状を呈する疾患です。

病名:総動脈幹遺残症とは?

図1:総動脈幹遺残

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか。

総動脈幹遺残は出生約10,000人に1人とされています。

3. この病気はどのような人に多いのですか。

患者さんの約35%に22q11.2欠失症候群がみられます。

4. この病気の原因はわかっているのですか。

大動脈と肺動脈はもともと心臓から出る1本の血管(総動脈幹)の内部にらせん状の仕切りができて2本に分かれてできるのですが、総動脈幹遺残症では、この仕切りが形成されないために起こると考えられています。大動脈と肺動脈の分割に役割を果たす心臓神経堤細胞の異常で起こる可能性が考えられていますが、心臓発生異常の起因となる原因は不明です。22q11.2欠失症候群での合併が多いです。

5. この病気は遺伝するのですか。

総動脈幹遺残症では、明らかな遺伝性は認められていません。一般に先天性心疾患の親から子へ何らかの先天性心疾患が遺伝する確率は、父親で1-3%程度、母親で2-12%程度とされています。ただし22q11.2欠失症候群は50%の確率で子供に遺伝します。

6. この病気ではどのような症状がおきますか。

新生児期または乳児期早期に多呼吸、陥没呼吸、哺乳不良、体重増加不良、発汗などの心不全症状で発症することが多いです。症状の重さは肺血流量の増加と総動脈幹弁逆流の程度に依存します。 チアノーゼ には気づかれない症例もあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか?

肺血流増多による 肺高血圧 および心不全症例には、姑息手術として左右の肺動脈絞扼術を施行します。最終的な修復手術としてラステリ手術(心内導管を使って心室中隔欠損を斜めに閉鎖すると同時に、右室流出路から左右の肺動脈に弁つき心外導管を造設する)を施行します。総動脈幹弁の形態異常が強い症例では、弁形成、弁置換手術やホモグラフトによる大血管再建術も施行されます。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか。

手術を施行しない自然歴は極めて不良のため、新生児期または乳児期早期の手術が必要です。重度な先天性心疾患であり新生児期の死亡例は多く、姑息手術後の死亡例も少なくありません。心内修復術手術を行ったお子さんでも、遺残および続発する心外導管の 狭窄 や閉鎖不全、大動脈弁閉鎖不全の程度、不整脈の性質と頻度により、予後が左右されます。術後も慎重な経過観察が必要で、学校での運動制限や生活制限が必要になる場合があります。高い確率で カテーテル治療 や再手術の可能性があります。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか。

術後の遺残症および続発症の状態と程度によります。ラステリー手術が行われても、大動脈弁逆流による心不全や不整脈がある患者さん、右室-肺動脈の心外導管に狭窄や閉鎖不全のある患者さんでは、症状に応じて学校での運動制限および日常生活での制限が必要になってきます。成人期以降では、無理な仕事は避けるべきでしょう。主治医の指示に従って定期的な検査を受け、必要に応じて薬を服用して、規則正しい無理のない生活をするようにしましょう。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

11. この病気に関する資料・リンク

① 小児・成育循環器学. 日本小児循環器学会編集. 診断と治療社, 2018.
② 先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf
③ 成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/08/JCS2017_ichida_h.pdf
④ 先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン(2022年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Ohuchi_Kawada.pdf

 

情報提供者
研究班名 先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の救命率の向上、円滑な移行医療、成人期以降の予後改善を目指した総合的研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和6年7月)