先天性三尖弁狭窄症(指定難病311)

せんてんせいさんせんべんきょうさくしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「先天性三尖弁狭窄症」とは

先天性三尖弁狭窄症とは、右心室の入り口にあたる三尖弁が生まれつき狭くなっている状態の病気です。右心室に血液が十分に入らないために、右心室が小さく、心臓手術を行っても通常の右心室として使用することはできない場合がほとんどです。そのため、使用できる心室が左心室のみであり、三尖弁閉鎖症や単心室症と同じように最終的にフォンタン型手術を目指すことになります。三尖弁狭窄症では、肺へ流れる血液量が少なく、チアノーゼ(低酸素血症によって皮膚・粘膜が暗紫色となる状態)が主な症状となります(図1)。


図1:先天性三尖弁狭窄症(右室低形成、高度な肺動脈狭窄を伴う)


2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか。

まれな病気です。全国で約500人の患者さんがいると推定されます。成人になった患者さんがどのくらいいるかは、まだ明らかではありません。

3. この病気はどのような人に多いのですか。

ほとんどの場合は様々な原因が関与して発症するため、特にどのような人に多いという傾向は明らかではありません。しかし、ときに同一家系内に発生する例、染色体異常に伴って発生する例がみられます。

4. この病気の原因はわかっているのですか。

胎児期(胎生30日頃)に右心房と右心室、左心房と左心室の繋がりができあがっていく過程がうまく行かず、三尖弁が狭くなってしまいますが、その原因は不明です。

5. この病気は遺伝するのですか。

ほとんどの場合、遺伝はしません。なんらかの遺伝子変異が関係している可能性はありますが、まだ明確ではありません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか。

出生後、動脈管が自然に閉鎖するにつれて肺に流れる血流量が減少し、チアノーゼは次第に強くなります。動脈管が閉じると、三尖弁を通る血液のみが肺へ行くので高度のチアノーゼをきたします。

7. この病気にはどのような治療法がありますか?

チアノーゼが進行するときは肺へ流れる血液量の不足が主な原因であるため、酸素を吸入しても良くなりません。ジノプロストンという薬を持続静注して動脈管が閉じないようにして、肺へ流れる血液量を確保する治療を行います。動脈管は大動脈と肺動脈を橋渡ししている血管で、出生後に自然に閉鎖する性質があります。これを開存させることによって肺血流を維持することができます。その後、1~2週間のうちに動脈管の代わりに シャント手術 (ブラロック・トーシッヒ短絡手術)を行います。また、心房間の交通が不十分で、静脈が うっ血 するときは、バルーンカテーテルを使って卵円孔を大きくする カテーテル治療 (心房中隔裂開術:BASと呼ぶ)が必要となることもあります。三尖弁狭窄症では右心室は小さくて使用できないので、単心室と同様の考え方でチアノーゼをなくすことを目標として、最終的にフォンタン型手術を目指します。しかし、ほとんどの症例ではフォンタン型手術を行う前にいくつかの段階的手術が必要となります。両方向性グレン手術(上大静脈を肺動脈につないで、まず上半身の静脈のみ肺へ流す手術)もその一つです。また、すべての患者さんにフォンタン型手術ができるわけではなく、肺動脈が細すぎるなど様々な理由で、フォンタン型手術に到達できないことがあります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか。

三尖弁の狭さの程度や肺動脈の太さによっても経過は違います。一般的に手術を行わない場合の生存率は低いです。フォンタン手術が成立すれば生存率は改善しますが、そこに到達するまでに段階的な手術を必要とすることが多く、フォンタン手術は1−3歳で行われることが多いようです。しかし、フォンタン手術に到達して経過の良好な患者さんでも、術後10〜20年以上すると、フォンタン術後症候群と言われる特殊な循環に伴う合併症が出現してくることがあります。フォンタン手術後の長期予後にはこのような合併症に対する対応が重要です。特に 予後 に影響する主な合併症は、心不全、不整脈、肝硬変、血栓症なのですが、それ以外にも、低酸素血症(チアノーゼ)の再発、腎障害、肝障害、 蛋白漏出性胃腸症 、特殊な気管支炎など様々です。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか。

フォンタン手術を行った患者さんでは、上記の続発症に注意して生活することが重要です。心不全の症状としては、顔や手足のむくみ、お腹の張り、息切れや動悸、持続する咳や痰、夜間の息苦しさなどがあります。不整脈の症状としては、動悸、胸痛、めまいなどがありますが、特に失神(意識消失)があった時は注意を要します。これらの症状があったときには早期に病院を受診するようにしましょう。また、血栓症の誘因となる脱水症にも気を付け、血栓予防の薬についても主治医とよく相談し、定期的に血液検査を受けるようにします。運動については、激しい運動はできないですが、自分に合った適度な身体的活動、運動を無理しない程度に日常に取り入れて体力を付けることも重要です。女性では妊娠のことも問題となります。フォンタン手術後の女性では、特に妊娠中に心臓に負担がかかり、母子ともに危険を伴うことが少なくありません。血栓予防のためにワルファリンを内服している場合は、妊娠はリスクとなります。妊娠可能な年齢になったら、早めに主治医の先生や産科の先生とよく相談して、十分な知識を持っておくことが必要です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

11. この病気に関する資料・関連リンク

① 小児・成育循環器学. 日本小児循環器学会編集. 診断と治療社, 2018.
② 先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf
③ 成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/08/JCS2017_ichida_h.pdf
④ 先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン(2022年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Ohuchi_Kawada.pdf
⑤ 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/06/JCS2018_akagi_ikeda.pdf

情報提供者
研究班名 先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の救命率の向上、円滑な移行医療、成人期以降の予後改善を目指した総合的研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和6年7月)