進行性ミオクローヌスてんかん(指定難病309)
○ 概要
1.概要
ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病(Unverricht-Lundborg病:ULD)、ラフォラ病(Lafora病)及び良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(benign adult familial myoclonus epilepsy:BAFME)は、進行性ミオクローヌスてんかん(progressive myoclonus epilepsy:PME)を呈し、難治に経過する。PMEは、①不随意運動としてのミオクローヌス、②てんかん発作としてのミオクロニー発作及び全般強直間代発作、③小脳症状、④認知機能障害を4徴として進行性の経過を呈する遺伝性疾患群の総称であり、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症などの脊髄小脳変性症、MELASやMERRFなどのミトコンドリア病、神経セロイドリポフスチン症などのライソゾーム病なども含む。しかし、ここでは、小児期から思春期に発症して成人以降も罹病期間が長いPMEの中核疾患であるウンフェルリヒト・ルンドボルグ病、ラフォラ病、さらに、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんを扱う。
良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんは、日本で多い進行性ミオクローヌスてんかんで、成人以降に発症して、当初症状は軽度でかつ緩徐に進行するが、高齢となり特に症状が悪化する。前者の特徴から「良性」の名称が使用されていたが、最近の研究からは進行性で、高齢となり特に症状が悪化し日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)が低下することが明らかになっている。尚、診断基準のうちDefiniteおよびProbableの項目を満たし、かつ全般強直間代発作がない場合は、「皮質振戦(cortical tremor)」という病名呼称が可能である。
2.原因
ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病、ラフォラ病は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)を呈し、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんは浸透率の高い常染色体顕性遺伝(優性遺伝)を呈する。後者は次世代の発症年齢の若年化も近年報告されている。ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病は21qに存在するシスタチンB(CSTB)の遺伝子変異(EPM1)によるものが大多数である。ラフォラ病は、約90%の患者でEPM2A(タンパク質はlaforin)とEPM2B(タンパク質はmalin)の変異が見出されるが、第3の原因遺伝子の存在も推定されている。良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんでは、世界の地域と各病型により病因遺伝子は異なり、SAMD12、STARD7、MARCH6、YEAST2、TNRC6A、RAPGEF2が報告されている。すべて共通してイントロンにおけるTTTCAならびにTTTTAからなる5塩基リピート伸長変異を認める。各病型により病因遺伝子は異なり、日本ではSAMD12が最も多く、次いでTNRC6A、RAPGEF2が多い。
3.症状
発症は、ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病は6~16歳、ラフォラ病は7~18歳頃、そして良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんは、成人以降に発症する。ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病とラフォラ病は前述の4徴に加え、進行性かつ難治に経過すれば診断にそれほど難渋しない。しかし、時に若年ミオクロニーてんかん(juvenile myoclonic epilepsy:JME)などとの鑑別が困難な場合がある。ミオクローヌスが悪化すると、摂食や飲水、日常動作が困難になる。一方、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんは①不随意運動としての振戦様ミオクローヌス、②てんかん発作としてのミオクロニー発作及び全般強直間代発作の2徴が主体で、当初症状は軽度でかつ緩徐に進行するが、高齢となり特に症状が悪化する。
4.治療法
原因に対する根治療法は無く、てんかん発作やミオクローヌスに対する各種抗てんかん薬(バルプロ酸、クロナゼパム、フェノバルビタール、ゾニサミドなど)、抗ミオクローヌス薬(ピラセタム)による対症療法が主となる。ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病とラフォラ病ではフェニトインは小脳症状を悪化させ、特にウンフェルリヒト・ルンドボルグ病では統計的には生命予後を悪化させるという北欧の報告があるものの、痙攣発作の重積時には急性期のみ一時的に使用する場合もある。しかしフェニトインの長期的な使用は推奨されない。また3疾患ともに、カルバマゼピンは時にミオクロニー発作を悪化させるという報告もある。最近、ピラセタムと同じアニラセタム系に属するレベチラセタム、さらに選択的AMPA(α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid)型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)拮抗剤であるペランパネルが皮質ミオクローヌスの抑制効果が高いことが示されている。
5.予後
進行の程度は様々であるが、最近、ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病の一部は進行が比較的遅く、近年の治療法の改善により、発病後数十年生存することが指摘された。ラフォラ病は、数年で寝たきりとなる。良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんでは、振戦様ミオクローヌスもある程度薬剤でコントロールが可能だが一般に薬剤抵抗性で、特に高齢になると症状が悪化する。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病の遺伝子変異はライソゾーム関連機能の変化を生じると推測されている。ラフォラ病では、グリコーゲン合成の調節機構が破綻し、異常なグリコーゲンやポリグルコサンが蓄積し、細胞内に封入体を形成するのではないかと推測されている。)
3. 効果的な治療方法
未確立(てんかん発作やミオクローヌスに対する対症療法が主となる。)
4. 長期の療養
必要(進行性である。)
5. 診断基準
あり(研究班で作成し学会で承認された診断基準)
6. 重症度分類
研究班で作成し学会で承認された重症度分類に基づき、精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級 |
能力障害評価 |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
○ 情報提供元
「希少てんかんに関する包括的研究」班
当該疾病担当 分担研究者 京都大学医学研究科てんかん・運動異常生理学講座 教授 池田昭夫
研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター客員研究員 井上有史
日本小児科学会、日本小児神経学会
当該疾病担当者 公益財団法人東京都医学総合研究所 脳・神経科学研究分野 プロジェクトリーダー
佐久間啓
<進行性ミオクローヌスてんかんの診断基準>
1)ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
A.症状
1.ミオクローヌス、てんかん発作で発症する。多くは6~16歳
2.常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)を呈する。
3.発症数年後に小脳失調症状、認知機能障害が出現する。
4.認知機能障害は軽度であることも多いが、経年的に悪化あるいは非進行性で経過する。
B.発作症状
1.ミオクローヌスは、舌・顔面及び四肢に比較的対称性に、同期性及び非同期性に起こる。
2.自発性ミオクローヌス以外に、刺激誘発性もある(感覚刺激やストレス負荷)。疲労時に増強しやすい。
3.ミオクローヌスの群発が高じて時に全般強直間代発作に移行することがある。
C.検査所見
1.脳波:基礎律動の軽度徐波化、全般性突発波、多棘波、光過敏性を認める。
2.皮質反射性ミオクローヌスの所見:体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential:SEP)の早期皮質成分の巨大化(巨大SEP)、C反射、ジャークロックアベレージング(jerk-locked averaging:JLA)法で先行棘波を認める。
3.頭部MRI:橋、中脳、小脳の萎縮と軽度大脳萎縮を認める。
D.鑑別診断
その他の進行性ミオクローヌスてんかんを呈する疾患、レノックス・ガストー症候群
E.遺伝学的検査
EPM1(CSTB)の異常
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの4項目+Bの1項目以上+Cの3+Cの1、2のいずれかを満たし、Eを満たすもの
Probable:Aの4項目+Bの1項目以上+Cの3+Cの1、2のいずれかを満たし、Dの鑑別すべき疾患を除外したもの
2)ラフォラ病の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
A.症状
1.ミオクローヌス、てんかん発作で発症する。多くは7~18歳
2.常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式を呈する。
3.発症数年後に小脳失調症状、認知機能障害が出現する。
4.通常は数年で寝たきりとなる。
B.発作症状
1.幻視からなる視覚発作。次いで動作性及び静止時ミオクローヌスが続発する。
2.ミオクローヌスは、刺激誘発性もある(光・音刺激やストレス負荷)。疲労時に増強しやすい。
3.ミオクローヌスの群発が高じて、時に全般強直間代発作に移行することがある。
C.検査所見
1.脳波:基礎律動の徐波化、全般性突発波、多棘波、光過敏性を認める。
2.皮質反射性ミオクローヌスの所見:体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential:SEP)の早期皮質成分の巨大化(巨大SEP)、C反射、ジャークロックアベレージング(jerk-locked averaging:JLA)法で先行棘波を認める。
3.皮膚・神経生検材料:ラフォラ小体の同定(ポリグルコサンを主とする過ヨウ素酸シッフ(periodic acid
-Schiff)染色陽性・アミラーゼ非消化の凝集体)
4.アリルスルファターゼAの低下:特に緩徐進行性の経過をとる患者に認めることがある。
D.鑑別診断
その他の進行性ミオクローヌスてんかんを呈する疾患、レノックス・ガストー症候群
E.遺伝学的検査
EPMA2A、EPMA2Bに病的変異を認める。
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの4項目+Bの1項目以上+Cの1、2のいずれかを満たし、Cの3若しくは4又はEを満たすもの
Probable:Aの4項目+Bの1項目以上+Cの1、2のいずれかを満たし、Dの鑑別すべき疾患を除外したもの
3)良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの診断基準
Definite、Probableを対象とする。
A.症状
1.成人以降から中年期に発症、時に臨床的表現促進現象で10歳以降に発症する。
2.浸透率の高い常染色体顕性遺伝(優性遺伝)を呈する。
3.認知機能低下や小脳失調は認めない。
B.発作症状
1.振戦様ミオクローヌス(皮質振戦):本態性振戦に類似したミオクローヌスを両上肢中心に認める。緩徐進行性で特に60歳前後の老年期に悪化する。ミオクロニー発作も認める。
2.稀発全般強直間代発作:通常年1回未満の頻度。光過敏性を有することもある。
C.検査所見
1.脳波:全般性突発波、多棘波、光過敏性を特徴とする。基礎律動の軽度徐波化
2.皮質反射性ミオクローヌスの所見(以下のいずれかを示す):体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential:SEP)の早期皮質成分の巨大化(巨大SEP)、C反射、ジャークロックアベレージング(jerk-locked averaging:JLA)法で先行棘波を認める。
3.形態画像、機能画像共に明らかな異常を認めないが、中高年以降に軽度の脳萎縮を示す。
D.鑑別診断
その他の進行性ミオクローヌスてんかんを呈する疾患、レノックス・ガストー症候群
E.遺伝学的検査
SAMD12、TNRC6A、RAPGEF2に病的変異を認める。
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの3項目+Bの1項目以上+Cの2項目以上+ Eを満たしたもの
Probable:Aの3項目+Bの1項目以上+Cの2項目以上を満たし、Dの鑑別すべき疾患を除外したもの
<重症度分類>
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級(※1) |
能力障害評価(※2) |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
「G40てんかん」の障害等級(※1)の等級を確認し、能力障害評価(※2)の該当性を確認する。
※1 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分
てんかん発作のタイプと頻度 |
等級 |
ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合 |
1級程度 |
イ、ロの発作が月に1回以上ある場合 |
2級程度 |
イ、ロの発作が月に1回未満の場合 |
3級程度 |
「てんかん発作のタイプ」
イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
※2 精神症状・能力障害二軸評価 (2)能力障害評価
○判定に当たっては以下のことを考慮する。
①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。
②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合 を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。
1 |
精神障害や知的障害を認めないか、又は精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通に出来る。 |
2 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。 |
3 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援 を必要とする。 |
4 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。 |
5 |
精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんど出来ない。 |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 小林 勝哉、池田昭夫.進行性ミオクローヌスてんかん.てんかん症候群 診断と治療の手引き.日本てんかん学会(編).メディカルレビュー社,2023;128-136.