膠様滴状角膜ジストロフィー(指定難病332)

こうようてきじょうかくまくじすとろふぃー
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
角膜実質にアミロイドが沈着することにより、眼痛などの不快感とともに著明な視力低下を来す疾患。常染色体劣性遺伝を示唆する家族歴(兄弟姉妹間の家系内発症、両親の血族婚など)を認める遺伝性角膜ジストロフィーで、TACSTD2遺伝子の両アリルの機能喪失性変異による角膜上皮バリア機能の破綻が原因とされる。
 
2.原因
責任遺伝子であるTACSTD2遺伝子の両アリルの機能喪失によって疾患が生じ、片アリルだけが異常の場合には発症しない。本疾患では角膜上皮のバリア機能が著しく低下しており、これにより、涙液中のたんぱく質等が角膜組織内に侵入してアミロイドを形成し、発症すると考えられている。
 
3.症状
基本的に生涯にわたって角膜上皮下にアミロイドの沈着が進む進行性の疾患である。発症が早い症例では10歳前後から、羞明、流涙及び異物感を訴え、その際、角膜中央に透明なアミロイドの小隆起を認めることがある。その後、加齢とともに、アミロイド沈着数、大きさが増していき、灰白色から黄色の沈着となり、視力に障害が起こる。通常、成人期以降には瞼裂部を主体にこの沈着が角膜の大部分を覆い、周辺部からの血管侵入、著明な視力低下及び眼痛を来たし、その他整容的な問題も引き起こすことで患者のQOLを大きく低下させる。以上が本疾患における症状の典型例であるが、本疾患においては臨床像に大きな揺らぎがあり、他の角膜アミロイドーシスや帯状角膜変性などによく似た臨床像を示すことがある。この場合は後述の遺伝子診断が有用であることが多い。
 
4.治療法
角膜の透明性を回復するための角膜移植が行われるが、角膜移植を行っても角膜混濁の再発率は100%であり、再発した角膜混濁の治療のために、生涯にわたって数年ごとの角膜移植が必要である。また、混濁を外科的処置以外で除去する方法は知られていない。
 
5.予後
角膜疾患の中では予後が悪い疾患の一つである。視力維持のために若年から生涯にわたり角膜移植を繰り返す必要がある。本疾患による角膜混濁だけでなく、角膜移植の合併症や移植後の緑内障の発症により失明に至る場合も多い。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
約400人
2.発病の機構
不明(TACSTD2の機能欠損により上皮バリア機能が破綻すると推定されている。)
3.効果的な治療方法
未確立(視機能の向上を目指して角膜移植を含めた角膜手術を行うが、再発は必発である。)
4.長期の療養
必要(若年期から重篤な視力障害に至り、頻繁に再発するため、角膜移植は有効ではない。)
5.診断基準
あり(希少難治性角膜疾患の疫学調査研究班で作成し、日本眼科学会にて承認されている。)
6.重症度分類
膠様滴状角膜ジストロフィーの重症度評価を用いてIII度以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
難治性疾患政策研究事業 「角膜難病の標準的診断法および治療法の確立を目指した調査研究班」
研究代表者 大阪大学 教授 西田 幸二
日本眼科学会
理事長 筑波大学 教授 大鹿 哲郎
 
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。

膠様滴状角膜ジストロフィーの診断基準

A.症状
1.視力低下
2.羞明
3.異物感
4.流涙

B.検査所見
1.両眼の角膜中央部から瞼裂に灰白色隆起性の角膜上皮直下のアミロイド沈着物の集簇(桑の実状と呼ばれる)を認める。
2.透過性の亢進から角膜上皮障害がないにもかかわらず、フルオレセイン染色後数分後に蛍光が観察されるdelayed stainingを認める。
3.角膜周辺部に表層の血管侵入を認める。

C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
1.二次性アミロイドーシス(注1)
2.Climatic droplet keratopathy(注2)

D.眼外合併症
なし

E.遺伝学的検査
TACSTD2遺伝子に異常を認める。(注3)

<診断のカテゴリー>
Definite:
・Dを満たし、Aのいずれかを認め、Bの1を認め、Cの鑑別すべき疾患を除外できる症例
・Dを満たし、Aのいずれかを認め、Bの2または3を認め、Eを認め、Cの鑑別すべき疾患を除外できる症例 (注4)

注釈
注1.睫毛乱生症や眼瞼内反症により睫毛が角膜上皮に接触する場合や、円錐角膜の突出の頂点付近の角膜上皮直下のアミロイドを認める場合があり、本疾患の角膜所見に類似する場合がある。
注2.40歳以上の男性に多く、黄色から灰白色の隆起状角膜病変により視力が低下する疾患。通常砂漠や極寒地域に見られ、紫外線や乾燥が原因と考えられている。
注3.TACSTD2はシングルエクソン遺伝子であり、検索が容易であること、また、本邦患者において同祖性が存在しQ118X変異(創始者変異)が病因染色体の80%以上を占めること、さらに、非典型例もこの創始者変異により発症することから診断的価値は高い。
注4.本症においては、Bの1は非常に特徴的な所見であり、診断に苦慮することはない(典型例)。
Bの1を認めない非典型例においては、A~Cのいずれかの組み合わせとEの遺伝子検査を持って診断する。

 

<重症度分類>
以下でIII度以上の者を対象とする。
 
I 度:罹患眼が片眼で、僚眼(もう片方の眼)が健常なもの
II 度:罹患眼が両眼で、良好な方の眼の矯正視力0.3以上
III 度:罹患眼が両眼で、良好な方の眼の矯正視力0.1以上、0.3未満
IV 度:罹患眼が両眼で、良好な方の眼の矯正視力0.1未満

注1.健常とは、矯正視力が1.0以上であり、視野異常が認められず、また、眼球に器質的な異常を認めない状況である。
注2.I~III度の例で、続発性の緑内障等で良好な方の眼の視野狭窄を伴った場合には、1段階上の重症度分類に移行する。
注3.視野狭窄ありとは、中心の残存視野がゴールドマンI/4視標で20度以内とする。
注4.乳幼児等の患者において視力測定ができない場合は、眼所見等を総合的に判断して重症度分類を決定することとする。

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和元年7月1日

情報提供者
研究班名 前眼部難病の診療ガイドライン作成および普及・啓発の研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和6年6月)