膠様滴状角膜ジストロフィー(指定難病332)

こうようてきじょうかくまくじすとろふぃー
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.膠様滴状角膜ジストロフィーとはどのような病気ですか?

膠様滴状角膜ジストロフィー(gelatinous drop-like corneal dystrophy)は、遺伝子の変異が原因で起こる進行性の病気で、眼の黒目部分にある角膜と呼ばれる透明な膜のうち、角膜実質層にアミロイドが沈着することで混濁し、羞明や視力低下をきたす病気です。

図.膠様滴状角膜ジストロフィー患者の前眼部写真(2枚とも)


2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

1992年に行なわれた調査では、日本での 有病率 は約3万3000人に一人という推定がされましたが、現在はいとこ婚などの近親婚も減っており、より低い有病率(数分の1から10分の1程度)になっていると考えられています。


3. この病気はどのような人に多いのですか?

世界的に見ると、欧米に比べて日本人に多い病気です。 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝) という形式で遺伝するため、両親に血縁関係(いとこ婚など)がある場合が多く、兄弟姉妹など、家系内に同じ病気の患者さんがいる可能性があります。


4. この病気の原因はわかっているのですか?

2つある遺伝子のうち、TACSTD2遺伝子の両方に変異がある場合に発症することが分かっています。この遺伝子は、角膜上皮(角膜の一番表面にある層)の バリア機能 の維持に関わっていると考えられ、遺伝子が正常に機能しなくなることによって、バリア機能が低下します。そのため涙液中のラクトフェリン蛋白などが角膜の中に侵入し、何らかのメカニズムによって不溶性のアミロイドとして角膜実質に沈着することで起こります。


5. この病気は遺伝するのですか?

常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)という形式で遺伝します。お子さんはご両親から1つずつ遺伝子を受け継ぎますが、受け継いだ遺伝子のうち両方に変異があった場合のみ病気を発症します。片方に変異があった場合は 保因者 となりますが、発症はしません。


6. この病気ではどのような症状がおきますか?

主な自覚症状としては、羞明、流涙、異物感、視力低下があります。角膜混濁のタイプによってtypical mulberry type、band-keratopathy type、kumquat-like type、stromal opacity typeの4つのタイプに分類されています。典型例(typical mulberry type)の場合は比較的診断が容易ですが、非典型例の場合は、角膜の濁り方が他の病気と似ている場合もあり、症状や検査所見を総合的に判断して診断します。またこの病気は原因遺伝子が分かっているため、遺伝子検査を行うことで確定診断を行う事も可能です。症状については8で詳しく説明していますのでそちらもご覧ください。


7. この病気にはどのような治療法がありますか?

初期の場合は、手術によって角膜上の隆起物を除去します。病気が進行して角膜が混濁し、羞明や視力低下の原因になっていると考えられる場合には角膜移植を行いますが、根本原因は遺伝子変異にありますので、角膜混濁は再発します。そのため手術は複数回に及ぶことがほとんどで、全層角膜手術よりは拒絶反応や緑内障といった術後合併症の頻度が少ない表層角膜移植が行われることが多いです。また詳しいメカニズムは分かっていませんが、治療用ソフトコンタクトレンズの装用がアミロイドの沈着に抑制的に働くことが分かっています。そのため進行を遅らせる、あるいは角膜移植後の再発を遅らせるために治療用ソフトコンタクトレンズを装用します。


8. この病気はどういう経過をたどるのですか?

この病気は基本的には両眼同時に進行しますが、左右差を認める場合もあります。多くの場合10歳~20歳にかけて、両眼に異物感や羞明感、流涙などを強く自覚します。その際、角膜中央に透明なアミロイドの小隆起を認めることがあります。典型的症例ではその後角膜中央部を中心に乳白色からやや黄色を帯びた隆起物が出現し、視力障害が起こります。アミロイドの沈着は徐々に数や大きさを増しながら角膜周辺部へ広がっていき、最終的には角膜全体が隆起性の混濁に覆われ、周辺部から血管が侵入して来ます。角膜の混濁と、表面形状変化による不正乱視もあいまって、視力は著しく低下します。眼痛をきたし、また見た目の問題も引き起こすことで、患者さんのQOLは大きく低下します。


9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか?

日常生活で特に注意することはありませんが、羞明を訴える方が多いので、遮光眼鏡の装用によって羞明の自覚症状が軽減する可能性があります。


10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

GDLD (Gelatinous drop-like dystrophy)


用語の解説

角膜(かくまく):
目の黒目の部分にある厚さ0.5mmほどの薄い膜のことを言います。透明性が高く、また球面状の形状をしていることから光を曲げるレンズとしての働きを持ちます。表面から内側にかけて5つの層に分かれ、最表層に5-6層の角膜上皮(じょうひ)細胞があります。

アミロイド:
蛋白質が繊維状に連なり、水に溶けにくくなったものです。

羞明(しゅうめい):
光が強くて不快に感じたり見えにくい状態になったりする「まぶしさ」のことをいいます。

遮光眼鏡(しゃこうがんきょう、しゃこうめがね):
遮光眼鏡は、まぶしさの要因のひとつである可視光短波長(青色光)をカットし、ものを見るのに必要な波長の光を出来るだけ多く通すように作られた特殊なカラーフィルターレンズです。 一般的なサングラスは、全ての波長の入射光量を同等に低下させるので、まぶしさだけでなく明るさもカットしてしまいますが、遮光眼鏡はまぶしさを軽減して像の輪郭をくっきりさせ、サングラスに比べて明るい視界が得られます。
難病患者の場合、遮光眼鏡は補装具として公的な補助(※)を受けることができます。
※自治体による審査があります。

 

情報提供者
研究班名 前眼部難病の診療ガイドライン作成および普及・啓発の研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和6年6月)