極長鎖アシル-CoA 脱水素酵素欠損症(指定難病344)

ごくちょうさあしる-こえーだっすいそこうそけっそんしょう

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
 極長鎖アシル-CoA脱水素酵素 (very long-chain acyl-CoA dehydrogenase; VLCAD) 欠損症は脂肪酸代謝異常症の代表的な疾患の1つである。本疾患ではミトコンドリアでの脂肪酸β酸化が障害されるためエネルギー需要の多い脳や、脂肪酸β酸化が盛んな心臓、骨格筋、肝臓などが障害されやすい。発熱や運動などのエネルギー需要が増大した時や、下痢・嘔吐・飢餓などのエネルギー摂取が低下した際に重篤な低血糖や横紋筋融解症などをきたすことが多い。脂肪酸代謝異常症の一群の中でも、成人患者が多く報告されている。
 VLCAD欠損症は常染色体潜性(劣性)遺伝疾患で、その臨床像は幅広い。発症時期によって症候が異なる傾向がある。新生児期もしくは乳児期早期から重度の心筋症や低血糖をきたし、生命予後の改善が困難である症例から、乳幼児期に重度の低血糖やReye様症候群、乳幼児突然死症候群(SIDS)様症状で発症する症例、幼児期以降から成人期に発症し、横紋筋融解症や筋痛、筋力低下が中心となる症例もある。本疾患は新生児マススクリーニング(NBS)の対象疾患であるが、NBSでは発見されない症例もある。
NBS発見例の中には、これまでの発症例では見られない病的バリアントを持つ患者が発見されるようになった。このような患者がいつ頃、どのような症状で発症するのかは明らかでない。いずれの病型においても、現時点では根本的な治療はなく、飢餓を避けながら特殊治療ミルクである必須脂肪酸強化MCTフォーミュラーや、自費で購入しているMCT(中鎖脂肪酸)オイルやパウダーの摂取といった食事・生活指導や、運動制限による代謝不全発作の予防が試みられているが症候のコントロールは困難である。
 我が国におけるNBSからの結果では、9.3万人に1人の発見頻度と報告されている。
 
2.原因
 VLCADをコードする遺伝子であるACADVL遺伝子の異常による。遺伝子型と表現型のある程度の相関が指摘されている。新生児期発症型ではナンセンス変異やフレームシフトなど残存酵素活性をもたない変異が多く、残存酵素活性をもつミスセンス変異は乳幼児期以降に発症する場合が多いが、特に筋症状を中心として、その発症や進行の機序は十分に解明されていない。また、p.C607Sに代表されるNBS開始後に高頻度に発見されるバリアントについても病態における意義が十分に解明されていない。
 
3.症状
 本疾患の臨床像は幅広い。新生児期もしくは乳児期早期から発症する場合は、重度の心筋症や低血糖が見られる。乳幼児期は重度の低血糖やReye様症候群、SIDS様症状で発症する事が多い。幼児期以降から成人期には横紋筋融解症や筋痛、筋力低下などの骨格筋症状を中心に発症する事が多いが、心筋症やそれに伴う不整脈が見られる症例もある。筋症状や心筋症状のコントロールは、各種の治療を行っていてもしばしば困難である。
 
4.治療法
 根治的な治療法は確立しておらず、食事指導・生活指導により異化亢進のエピソードを回避すること、骨格筋、心筋への過度の負荷を避けることを原則とする。食事療法では、必須脂肪酸強化MCTフォーミュラーやMCTオイルの使用、長鎖脂肪酸の制限が推奨されている。薬物治療としてはL-カルニチン投与、ベザフィブラート投与などが行われることがあるが、それらの効果は限定的である。その他は対症的な治療にとどまり根本的な治療はない。特に筋症状や心筋症状については治療にも関わらずコントロールが困難であることも多い。
 
5.予後
 新生児期発症型はしばしば救命が困難である。乳幼児期に低血糖やReye様症候群として発症する場合、迅速かつ適切な治療が行われない場合は生命予後・神経学的予後ともに不良である。乳幼児発症型の症例が次第に筋型の表現型を呈することはしばしば経験される。近年、成人診断例の報告が散見され、成人期においても運動や飢餓を契機に横紋筋融解症やミオパチー、筋痛発作、心筋症などを来すことが報告されている。治療中であっても骨格筋や心筋への負荷を避けるために、立ち仕事や肉体労働が出来ず、就労が困難な症例もしばしば経験される。治療を継続しない場合、成人期においても心筋症などの心筋障害を来すことも報告されている。飲酒、妊娠、外科手術なども代謝不全の誘因となりえる事が知られており、生涯にわたる経過観察及び治療が必要である。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
1,340人
新生児マススクリーニングの成果からは9.3万出生に1人との報告あり。新生児発症型は我が国では稀であるので、乳幼児期発症型、遅発型がほとんどであると仮定して計算した。
このうち、成人期で中等度以上の重症度となる患者は少なく見積もって60%程度と推定される。
2.発病の機構
病態の解明が不十分である。ACADVL遺伝子の先天的異常が原因であるが、遺伝子型に対応する臨床像についても不明な点が多い。また、成人期において特に問題となる、筋症状の発病メカニズムは未解明である。
3.効果的な治療方法
未確立。(中鎖脂肪酸(MCT)の積極的摂取ならびに長鎖脂肪酸の摂取制限といった食事療法、ならびに運動制限などで、ある程度の病状コントロールは出来ることが多いが、根本的な治療ではなく、症候のコントロールが困難な例が多い。近年、海外において奇数鎖中鎖脂肪酸(Triheptanoin)による有効性が示されたが、これも症候の軽減に留まっている。)
4.長期の療養
必要(潜在的な低血糖、心筋症や横紋筋融解などのリスクが常にある。これらは治療中であっても感冒や長時間の飢餓、運動などで発作が誘発される。また、治療を行っていても筋痛や筋力低下等により生活の制限が生じる場合も少なくないことから、生涯にわたる治療を要する。)
5.診断基準
あり(研究班が作成し、日本先天代謝異常学会が承認した診断基準)
6.重症度分類
日本先天代謝異常学会による先天代謝異常症の重症度評価を用いて、中等度以上を対象とする。
 
 
○ 情報提供元
厚生労働科学研究費 難治性疾患政策研究事業
「新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究」
研究代表者 熊本大学大学院生命科学研究部小児科学講座 教授 中村公俊
研究分担者 島根大学医学部附属病院検査部 講師 小林弘典
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。

A.症状
1.意識障害、けいれん
低血糖によって起こる。急激な発症形態からSIDSと診断される場合や、急性脳症、肝機能障害を伴う場合はライ様症候群と診断される場合も多い。
2.心筋症状
心筋症は新生児期発症例ではしばしば治療に難渋する。遅発型においても見られる。
3.不整脈
心筋症に伴うことが多い。
4.肝腫大
病勢の増悪時には著しい腫大を認めることもあるが、間歇期には明らかでないことも多い。
5.骨格筋症状
ミオパチー、筋痛、易疲労性を呈する事が多い。本疾患ではしばしば横紋筋融解症を来す。
6.消化器症状
乳幼児期発症型において、低血糖時に嘔吐が主訴になることがある。
7.発達遅滞
診断に至らなかった急性発作からの回復後や繰り返す低血糖発作によると考えられる。

B.検査所見
1.血液・生化学的検査所見
a.低〜非ケトン性低血糖:低血糖時に遊離脂肪酸/総ケトン体モル比 > 2.5または遊離脂肪酸/3ヒロドキシ酪酸モル比 > 3.0
b.肝逸脱酵素上昇
c.高CK血症
d.高アンモニア血症
2.血中アシルカルニチン分析
ろ紙血または血清アシルカルニチン分析でC14:1及びC14:1/C2比の上昇
3.脂肪酸代謝能検査
末梢血リンパ球や培養皮膚線維芽細胞を用いた酵素活性測定や機能解析で、VLCAD酵素活性の低下を示す所見を呈する。
4.病理所見
筋生検において、赤筋を中心に赤色ぼろ繊維やOil red O染色で強反応が見られる。疾患特異的ではないが、脂肪酸代謝異常症を強く疑う所見である。

C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
インフルエンザ脳症などを含むウイルス性の急性脳症/脳炎、高インスリン性低血糖症、心筋症(二次性、肥大型、特発性拡張型、拘束型など)、ミオパチーをきたす他の筋疾患、他の脂肪酸代謝異常症。
 
D.遺伝学的検査
ACADVL遺伝子に病原性変異を認める。

<診断のカテゴリー>
Definite 1: Aの1項目以上またはB1の1項目以上またはB4を認め、かつB2を認め、Cの鑑別すべき疾患を除外し、B3またはDを満たす
Definite 2(新生児マススクリーニング等による発症前型): B2を認め、Cの鑑別すべき疾患を除外し、B3またはDを満たす
Probable 1: Aの1項目以上またはB1の1項目以上またはB4を認め、かつB2を認める
Probable 2(新生児マススクリーニング等による発症前型): B2を認める

 
<重症度分類>
日本先天代謝異常学会による先天代謝異常症の重症度評価を用いて、中等度以上を対象とする。

点数

I

薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

治療を要しない

b

対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している

c

疾患特異的な薬物治療が中断できない

d

急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする

II

食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

食事制限など特に必要がない

b

軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である

c

特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である

d

特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である

e

経管栄養が必要である

III

酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

特に異常を認めない

b

軽度の異常値が継続している    (目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)

c

中等度以上の異常値が継続している (目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)

d

高度の異常値が持続している    (目安として2.0SD以上の逸脱)

IV

現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

異常を認めない

b

軽度の障害を認める  (目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害)

c

中程度の障害を認める (目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)

d

高度の障害を認める  (目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)

V

現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない

b

肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの)

c

肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの)

d

肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である
(目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの)

VI

生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

自立した生活が可能

b

何らかの介助が必要

c

日常生活の多くで介助が必要

d

生命維持医療が必要

総合評価

IからVIまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。

(1)4点の項目が1つでもある場合

重症

(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合

重症

(3)加点した総点数が3~6点の場合

中等症

(4)加点した総点数が0~2点の場合

軽症

注意

診断と治療についてはガイドラインを参考とすること

疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする

疾患特異的な食事栄養治療はガイドラインに準拠したものとする


※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。


 
令和7年4月1日

情報提供者
研究班名 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和7年4月(名簿更新:令和6年6月)