原発性肝外門脈閉塞症(指定難病346)
○ 概要
1.概要
肝外門脈閉塞症とは、肝門部を含めた肝外門脈の閉塞により門脈圧亢進症に至る症候群をいう(分類として、原発性肝外門脈閉塞症と続発性肝外門脈閉塞症とがあるが、続発性は除外する)。小児の門脈圧亢進症のうち肝硬変によらない門脈圧亢進症として最も頻度が高い。
2.原因
原発性肝外門脈閉塞症の病因は未だ不明であるが、血管形成異常、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患の関与が推定されている。
3.症状
重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害などの症候を示す。小児においては成長障害をきたしている例が多く、鼻出血を契機に診断されることがある。
4.治療法
閉塞した門脈を根本的に開通させる方法はない。予後を最も左右するものは、消化管静脈瘤出血である。出血例に対しては内視鏡的止血術(硬化療法、結紮術)を行い、止血困難な場合には緊急手術も考慮する。未出血の予防例でも易出血性の食道胃静脈瘤に対しては、内視鏡的治療、または予防手術を考慮する。しかし、手術を行う場合は、血行動態を検討して術式を選択することが重要である。側副血行路によって肝内門脈血流が保たれていることも多く、安易に手術を施行すると肝への門脈血流が無くなることがあるため注意を要する。
5.予後
3~7年生存率は90~98%、10年生存率は69~86%と報告されており、比較的生命予後は良い。消化管静脈瘤出血のコントロールが肝要である。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(2015年の全国疫学調査より推定)
770人(95%信頼区間:610-930人)
2.発病の機構
不明(血管形成異常、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患の関与が推定されている)
3.効果的な治療方法
未確立(消化管静脈瘤など門脈圧亢進症に対する治療が主体)
4.長期の療養
必要(根本的な治療法がない)
5.診断基準
あり(研究班が作成し、学会が承認した診断のガイドライン)
6.重症度分類
研究班作成の重症度分類を用いて重症度III以上を対象とする。
○ 情報提供元
「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班
研究代表者 帝京大学医学部内科学講座 教授 田中篤
同研究班 門脈血行異常症分科会・分科会長 東京女子医科大学足立医療センター検査科光学診療部・内視鏡内科 准教授 古市好宏
「小児期発症の希少難治性肝胆膵疾患における医療水準並びに患者QOLの向上のための調査研究」班
研究代表者 東北大学大学院医学系研究科小児外科学分野 客員教授 仁尾正記
<診断基準>
Definiteと Probable を対象とする。
A.検査所見
1.一般検査所見
内視鏡検査:消化管静脈瘤や門脈圧亢進症性胃腸症を認める。
2.画像検査所見
a.超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査
(ア)肝門部を含めた肝外門脈が閉塞し著明な求肝性側副血行路の発達を認める。
(イ)腹腔内に側副血行路を認める。
b.(経動脈性)門脈造影
肝外門脈の閉塞を認める。肝門部における求肝性側副血行路の発達が著明で、いわゆる“海綿状血管増生”を認める。
3.肝臓の肉眼所見
肝門部に門脈本幹の閉塞と海綿状変化を認める。肝表面は概ね平滑である。
B.鑑別診断
肝硬変症、特発性門脈圧亢進症、バッド・キアリ症候群、寄生虫疾患、肉芽腫性肝疾患、先天性肝線維症、慢性ウイルス性肝炎、非硬変期の原発性胆汁性肝硬変
右記による続発性肝外門脈閉塞症(新生児臍炎、腫瘍、肝硬変や特発性門脈圧亢進症に伴う肝外門脈血栓、胆嚢胆管炎、膵炎、腹腔内手術によるもの)。
<診断のカテゴリー>
Definite:A2a(ア)、A2b、A3のうち1項目以上を満たし、かつ、A1、A2a(イ)のうち1項目以上を満たし、Bの鑑別診断を除外できる
Probable:A2a(ア)、A2b、A3のうち1項目以上を満たし、尚かつBの鑑別診断を除外できる
<参考事項>
症状・臨床所見
1.進行とともに消化管静脈瘤出血による吐下血を生じるようになる。
2.脾腫、腹壁皮静脈の怒張、腹部膨満を認める(必須ではない)。
3.小児発症の場合は、肺病変を伴い低酸素血症をきたすことがあり、バチ状指をみることがある。
一般検査所見
1.血液検査:一つ以上の血球成分の減少を示す。
2.肝機能検査:軽度異常にとどまることが多い。
画像検査所見
1.脾臓の腫大を認める。
2.肝臓表面は正常で肝臓の萎縮は目立たないことが多い。
3.造影CT で、肝門部領域の染影低下と肝被膜下領域の染影増加を認めることがある。
肝臓の組織所見
肝の小葉構造はほぼ正常に保持され、肝内門脈枝は開存している。門脈域には軽度の炎症細胞浸潤、軽度の線維化を認めることがある。肝硬変の所見はない。
<重症度分類>
成人の場合は1~5のいずれか、小児の場合は1~6のいずれかを満たすものを対象とする。
1.食道・胃・異所性静脈瘤※1:(++)以上を対象とする。
(+):静脈瘤を認めるが、易出血性ではない。
(++):易出血性静脈瘤を認めるが、出血の既往がないもの。易出血性食道・胃静脈瘤とは「食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載基準(日本門脈圧亢進症学会)「門脈圧亢進症取り扱い規約(第 4 版、2022 年)」に基づき、F2 以上のもの、または F 因子に関係なく発赤所見を認めるもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。
(+++):易出血性静脈瘤を認め、出血の既往を有するもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。
※1 異所性静脈瘤とは、門脈領域の中で食道・胃静脈瘤以外の部位、主として上・下腸間膜静脈領域に生じる静脈瘤をいう。すなわち胆管・十二指腸・空腸・回腸・結腸・直腸静脈瘤、及び痔などである。
2.門脈圧亢進所見:(++)以上を対象とする。
(+):門脈圧亢進症性胃腸症※2、腹水、出血傾向、脾腫、貧血のうち一つもしくは複数認めるが、治療を必要としない。
(++):上記所見のうち、治療を必要とするものを一つもしくは複数認める。
※2 門脈圧亢進症性胃腸症は、組織学的には、粘膜層・粘膜下層の血管の拡張・浮腫が主体であり、門脈圧亢進症性胃症と門脈圧亢進症性腸症に分類できる。門脈圧亢進症性胃症では、門脈圧亢進に伴う胃体上部を中心とした胃粘膜のモザイク様の浮腫性変化、点・斑状発赤、粘膜出血を呈する。門脈圧亢進症性腸症では、門脈圧亢進に伴う腸管粘膜に静脈瘤性病変と粘膜血管性病変を呈する。
3.身体活動制限:(+)以上を対象とする。
(-):当該疾患による身体活動に制限がないか、あっても介助を要しないもの
(+):当該疾患による身体活動制限はあるが歩行や身の回りのことはでき、日中の 50%以上は起居している。
(++):当該疾患による身体活動制限のため介助を必要とし、日中の 50%以上就床している。
4.消化管出血:(+)以上を対象とする。
(+):現在、活動性もしくは治療抵抗性の消化管出血を認める。
5.肝不全:(+)以上を対象とする。
(+):肝不全の徴候は、血清総ビリルビン値 3mg/dl 以上で肝性昏睡度(日本肝臓学会昏睡度分類、第 12回犬山シンポジウム、1981)Ⅱ度以上を目安とする。
6.成長障害(小児のみ):(++)以上を対象とする。
(+):身長SD スコアが-1.5 SD 以下、-2.0SD未満
(++):身長SD スコアが-2 SD 以下、-2.5SD未満
(+++):身長SD スコアが-2.5 SD 以下
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。