出血性線溶異常症(指定難病347)

しゅっけつせいせんよういじょうしょう

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
遺伝性素因による出血性線溶異常症では、線維素溶解(線溶)制御因子であるプラスミノゲンアクチベータインヒビター-1(PAI-1)、α2-プラスミンインヒビター(α2-PI、α2-アンチプラスミン:α2-APと同一)及びトロンボモジュリン(TM)/トロンビン活性化線溶阻害因子(TAFI)のいずれかの先天的機能不全、あるいはプラスミノゲンアクチベータ(PA)の先天的活性増強により出血傾向あるいは止血不全をきたす。侵襲あるいは月経時の少量の失血後の予期せぬ大出血が特徴であり、欠損因子によっては遷延する出血とともに筋肉・関節内出血や臓器出血なども認める。
なお、原因不明の出血症状を呈する線溶活性促進病態において、PAI-1低値とともにその活性不全が疑われるにもかかわらず遺伝子異常が指摘されない病態もある。
 
2.原因
PAI-1、α2-PI、TM/TAFIのいずれかの単一遺伝子変異により線溶抑制活性不全が生じ、重篤な出血をきたす。いずれも常染色体潜性遺伝形式をとり、ホモ接合体では過度の線溶促進により止血血栓が早期に溶解されて出血をきたす。ヘテロ接合体では各因子の血中濃度は低下するが重篤な出血症状は認めない。
 
3.症状
PAI-1欠乏症では、月経時に超大量出血を認める。その他、流産、外科治療後の後出血や創傷治癒遅延などを認める。α2-PI欠乏症では、後出血のほか、歯肉出血から関節内出血、骨髄内出血と幅広い重症度を示す。TM異常症では、繰り返す皮下・筋肉内血腫、卵巣出血や外科侵襲後の出血を認める。
 いずれの病態でも線溶活性の促進による出血傾向を疑う一般凝血学検査所見として、理論上は血小板数・プロトロンビン時間(PT)・活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)・フィブリノゲンは基準値内であると考えられるが、出血病態の程度によりこれらの凝血学検査所見に異常を認めることもある。
 
4.治療法
治療法は確立されていない。出血時あるいは出血予防としてトラネキサム酸・新鮮凍結血漿を用い、TM異常症ではトロンボモジュリンアルファ(保険適用外)が投与される。
 
5.予後
出血時にはトラネキサム酸による線溶抑制と新鮮凍結血漿投与、TM異常症ではトロンボモジュリンアルファ(保険適用外)の投与などによる、出血のコントロール状況が予後を左右する。患者数が限られており長期予後は明らかとなっていない。
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
100人未満
2.発病の機構
不明(PAI-1、α2-PI、TM/TAFIいずれかの遺伝子の関連が示唆されている)
3.効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである)
4.長期の療養
必要(反復性の出血が認められ根治しない)
5.診断基準
あり(日本血栓止血学会標準化委員会 血栓溶解部会/同診断基準作成委員会で作成、日本血栓止血学会理事会にて承認)
6.重症度分類
あり(日本血栓止血学会にて承認済み、重症以上を対象とする)
 
○ 情報提供元
「血液凝固異常症等に関する研究」
研究代表者 金沢大学 教授 森下英理子
 
 
<診断基準>
DefiniteとProbableを対象とする。

A.症状
1.いったん止血した後に再出血(後出血)する。
2.外傷、手術、抜歯、月経時に大量に出血する。
3.反復性に出血する。

B.検査所見
1.血漿Dダイマーあるいはフィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP)が施設基準値より高値もしくは、血漿プラスミン・プラスミンインヒビター複合体(PIC)が基準値より高値である。
2.血液凝固第XIII因子活性は通常時、基準域内である。
3.a. PAI-1欠乏症*1
・血漿ユーグロブリン分画を用いたクロット溶解時間(ECLT)において、Ca2+非添加時のECLTに対して、Ca2+添加時のECLTの差分(変化率)は、-10%以上を示す。
b. α2-PI欠乏症
・血漿α2-PI活性(プラスミンインヒビター、アンチプラスミン)が基準値の下限未満である。
c. TM/TAFI異常症*2
・血漿クロット溶解時間においてcarboxypeptidase inhibitorによる短縮効果が消失する。

C.遺伝学的検査
PAI-1遺伝子(SERPINE1)、α2-PI遺伝子(SERPINF2)、TM遺伝子(THBD)、TAFI遺伝子(CPB2)のいずれかの遺伝子に病原性変異が同定されること
 
D.遺伝性を示唆する所見
1.若年性(40歳以下)発症
2.発端者と同様の症状を示す患者が家系内に1名以上存在

E.鑑別診断
1.血小板機能不全による出血*3
2.凝固因子欠乏による出血*4
3.続発性線溶促進[播種性血管内凝固(外傷、悪性腫瘍などによる)、ALアミロイドーシス、大動脈瘤、急性前骨髄球性白血病など]

<診断のカテゴリー>
Definite:Aの1項目以上、かつB1及びB2を全て満たし、Eの鑑別すべき疾患を除外し、かつCを満たす
Probable:Aの1項目以上、かつB1及びB2を全て、かつB3のいずれかを満たし、Eの鑑別すべき疾患を除外し、かつDを全て満たす
Possible:Aの1項目以上、かつB1及びB2を全て、かつB3のいずれかを満たし、Eの鑑別すべき疾患を除外する。
 
<参考事項>
*1血漿トータルPAI-1(tPA・PAI-1複合体)は原則として測定すること。
・線溶制御因子のなかで、PAI-1は正常血漿濃度の基準下限値設定がない。したがってPAI-1低値がPAI-1欠乏症と混同されている。PAI-1の線溶抑制活性はECLTにおいてCa2+添加の有無における差分(変化率)で示される。
*2血漿あるいは血清トロンボモジュリンは原則として測定すること。
・TM/TAFI異常症に関して、血漿TAFI抗原量・活性値の測定はできないが、活性化TAFI阻害作用を有するcarboxypeptidase inhibitorの添加により血漿クロット溶解時間が短縮することでTAFI活性は検出される。
*3可能な範囲で望ましい評価:出血時間、血小板凝集能検査
*4可能な範囲で望ましい評価:凝固因子(第II因子、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子)、von Willebrand因子(VWF)抗原・活性

<重症度分類>
重症出血のa.〜d.のいずれかを1回以上起こした例を重症例とし対象とする。
1.重症出血
a.致命的な出血
b.重要部位、重要臓器の出血(例えば、頭蓋内、脊髄内、眼球内、気管、胸腔内、腹腔内、後腹膜、関節内、心嚢内、コンパートメント症候群を伴う筋肉内出血等)
c.ヘモグロビン値8g/dL以下の貧血あるいは2g/dL以上の急速なヘモグロビン値低下をもたらす出血
d.24時間内に2単位以上の全血あるいは赤血球輸血を必要とする出血

2.軽症出血
上記以外の全ての出血**
:日本語版簡略版出血評価票(JBAT)も参考にすることを推奨
**:多発性及び有痛性の出血は、重症に準じて止血治療を考慮すべき

※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 
令和7年4月1日

情報提供者
研究班名 血液凝固異常症等に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和7年4月(名簿更新:令和6年6月)