片側痙攣・片麻痺・てんかん症候群(指定難病149)
1. 「片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群」とはどのような病気ですか
片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群とは、発熱などを契機として、左右いずれかの、もしくは全身性のけいれんが生じたあとに片麻痺が生じるという初期の急性期症状の後に、慢性期にさらにてんかんを発症する症候群です。てんかんなどの既往なく正常の発達を遂げていたこどもに、急性期症状のけいれんと片麻痺が認められ、その1カ月から4年後に発熱などの誘因がないてんかん発作を発症するので、初期は急性脳症とその後遺症としての診断で対応され、その後てんかんを発症してから本症候群と診断されます。このように、片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群は長い臨床経過を経て、総合的に診断される症候群であり、何か特別な検査などで診断されるものではありません。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群の日本における発症頻度などはわかっていません。日本における症例報告の累計では100例以下であり、確定診断例は少なくまれな症候群です。
3. この病気はどのような人に多いのですか
生後6カ月から4歳くらいのこどもに発症します。性別、人種による発症率の差は確認されておりません。
4. この病気の原因はわかっているのですか
明確な原因はわかっていません。しかし、てんかん重積状態の治療が進歩するとともに、急速にその発症率が低下したことから重症のてんかん重積状態が関連していると推定されています。欧州の一部の研究グループは、初期の急性期症状は複雑型熱性けいれんの最重症型と考えています。日本では、発熱時にてんかん重積状態で発症し、その後遺症として片麻痺を残すという観点から発熱の原因ウイルスに関連した急性脳炎・脳症、けいれん重積型脳症、または遅発性拡散低下を呈する急性脳症・acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion(AESD)として捉えられていることが多いようです。その病態生理は、発熱とその原因であるウイルス感染症により引き起こされる、高体温状態、サイトカインの異常、長時間持続するてんかん性発作波活動、 血液脳関門 障害などから中枢神経系の細胞に傷害が加わることが推定されています。しかし、なぜその傷害が大脳半球の片側優位性を示すのか、全くわかっていません。最近の研究では、重症てんかんと一部の熱性けいれんに関連するSCN1A遺伝子の変異、 家族性 片麻痺性片頭痛1型の原因遺伝子とも考えられているCACNA1A遺伝子の変異が、片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群に関連しているかもしれないことが報告されていますが、報告数が少ないため現時点では慎重な判断が必要です。
5. この病気は遺伝するのですか
現在わかっている範囲では、片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群の患者さんのこどもが、必ずしも、片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群を発症するとは言えません。SCN1A遺伝子やCACNA1A遺伝子などの遺伝子変異が直接、片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群を発症させる性質を持つとは限らず、いくつかの他の要因が加わって、はじめて病気を発症する疾患感受性遺伝子として働いている可能性も高いのです。遺伝子変異も含めていくつもの要因が加わってこの病気が起こる、という性質のものと思われます。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
発達が正常だったこどもにおいて、発熱を契機に、多くはけいれんが長時間持続して出現します。けいれんは左側だけ、右側だけなどの片側性、もしくは全身性だけれどもどちらか片側に強かったり、先行・ 遷延 したりします。その後、けいれんが強かった、または長かった側と同じ側の手足が動かない、または動きが少ないといった片側の弛緩性麻痺、すなわち片麻痺を呈します。この時点では、急性脳症(とその後遺症としての片麻痺)という診断がなされている事が多いです。片麻痺は1週間以上持続し、その後一部の患者さんでは改善しますが、多くは長く持続し、左右片側の手足の筋肉の緊張が高く、突っ張るような感じになる痙性片麻痺を示します。頭部CT、MRIなどの脳の形を調べる検査では、急性期には手足の麻痺の反対側の大脳半球がむくんだ状態(浮腫)を示し、やがて萎縮します。
片麻痺の他に傷害を受けた程度と脳の部位、広さによっては、知的障害、精神行動面での症状、半盲・ 半側空間無視 (失認)、さらに優位半球障害では言語障害を伴うこともあります。このような急性期のけいれん、片麻痺が連続した状態のあと、およそ1カ月から4年の間に、発熱などの誘因がないてんかん発作が発症します。発作型はほとんどが、脳の一部からの異常な電気信号の発射による焦点発作です。具体的には、意識がなくなって、まわりからの刺激に対し反応しなくなり、一点を見つめたり、虚空を見つめたまま、涎が流れ出たり、無意味に口をモグモグさせたり、顔色が悪くなり チアノーゼ を認めることもあります。他に、初期の急性期と同じように片側のけいれん、そこから進展し全身のけいれんを認めることもあります。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
初期の急性期症状に対しては、急性脳症と同じ治療が行われます。すなわち、てんかん重積状態に対しては、ベンゾジアゼピン系薬剤を中心とする静注用抗けいれん薬か麻酔薬の投与が行われ、発作の抑制が図られます。重症のてんかん重積状態では、全身麻酔と同等の対応が必要となり、人工呼吸管理、血圧を維持する薬剤の持続投与が行われることもあります。そのほか、急性脳症に準じた治療として、脳圧降下薬、ステロイド、抗ウイルス薬などの投与や、様々な対症療法が行われます。 亜急性 期で片麻痺が明瞭となった時期には、リハビリテーションとして理学療法、作業療法が開始され、優位側半球で言語機能の障害を伴う場合は言語聴覚士によるリハビリテーションなど障害に応じた対応が必要となります。慢性期のてんかんに対しては、発作型に応じ抗てんかん発作薬による内服治療が行われます。薬剤抵抗性で難治の場合は、大脳半球離断術、脳梁離断術、迷走神経刺激療法を含むてんかん外科的治療が試みられます。片麻痺などの障害に対しては、亜急性期からのリハビリテーションを継続し、関節拘縮・変形、下肢長差などの程度に応じ、装具、A型ボツリヌス毒素を含めた内科的治療、整形外科的治療が行われます。知的障害、精神行動障害に対しては、学校における教育を中心としてその重症度に合わせて対応が選択されていきます。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
この病気の経過は、患者さんによって様々で一定の傾向はありません。片麻痺の程度も様々で、反射などの診察所見を診なければ、ほとんど麻痺に気付かれない程度に回復する患者さんもいます。合併障害の知的障害も、全く認めない場合から重度の知的障害を呈することまで様々です。てんかん発作は急性期症状の1カ月後から4年程度で発症することが多いですが、極めて稀に急性期症状から10年以上経て発症することもあります。てんかん発症時期も様々ですが、その程度も様々で、1種類の薬剤で長期に完全抑制される患者さん、抗てんかん発作薬の内服を終了できる患者さんから、複数の内服薬でも連日発作を繰り返し外科治療を必要とする患者さんまでいます。また、片麻痺の程度が軽症でもてんかん発作は難治の場合もあり、片麻痺とてんかんの重症度も関連性が明らかではありません。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
日常生活の注意としては、一般的なてんかんの注意と同様です。ただし、片麻痺を合併していることで、四肢の運動が健常なてんかんの患者さんよりも転倒する危険が高くなります。てんかん発作の発作型と頻度に応じ、てんかん発作に伴う転倒、外傷、事故への対策をとる必要があります。また、てんかん発作の誘因が明らかな場合はそれらを避けることも重要で、誘因を回避できない場合は発作が起こることを前提に介助者が対応することも有益です。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
該当する病名はありません。
11. この病気に関する資料・関連リンク
1) 菊池健二郎、浜野晋一郎:片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群.てんかん症候群 診断と治療の手引き(日本てんかん学会編),96-99,メディカルレビュー社,2023.