片側痙攣・片麻痺・てんかん症候群(指定難病149)
○ 概要
1.概要
痙攣性てんかん重積状態(多くは片側性)に引き続き、一過性または恒久的な片麻痺を残す片側痙攣・片麻痺症候群を呈した症例において、後にてんかんを発症する症候群である。一般には4歳未満の小児における非特異的熱性疾患に伴うことが多い。てんかんの発症は、片側痙攣・片麻痺症候群発症からおよそ4年以内が多いとされる。合併症として、片麻痺の他に知的障害、精神行動障害を伴うことがある。
2.原因
非特異的感染症(多くはウイルス感染症)による発熱が契機となる片側大脳半球が優位に傷害される急性脳症として発症することが多く、痙攣重積型脳症又は遅発性拡散低下を呈する急性脳症(AESD)の臨床病型を呈する。その他に、動脈炎、頭部外傷、脳梗塞、プロテインS欠損症などの静脈性血栓塞栓症を原因とすることや、代謝異常、脳血管異常などの既往を有する患者において、発熱を主症状とする非特異的熱性疾患を契機に発症する。最近では、SCN1AやCACNA1Aなどの遺伝子異常も原因として報告されている。
3.症状
発熱を契機に、痙攣性てんかん重積状態で発症する。痙攣は片側性又は片側優位であることが多く、その後同側に弛緩性麻痺を呈し、この時点で片側痙攣・片麻痺症候群と診断される。麻痺は1週間以上持続し、一部は一過性で改善するが、多くは恒久的に痙性片麻痺が残存する。特発性においては、頭部CT・MRIで急性期には責任病変側の大脳半球に浮腫を認め、慢性期には同側大脳半球が萎縮を呈する。
てんかんの発症は片側痙攣・片麻痺症候群の発症から4年以内が多く、発作型はほとんど焦点性発作である。合併障害は、運動障害としての片麻痺の他に、知的障害、精神行動障害を伴うことがある。
4.治療法
根本的な治療はなく、対症療法が主体となる。急性期の痙攣性てんかん重積状態に対して、ベンゾジアゼピン系薬剤を中心とする静注用抗痙攣薬の投与、脳圧降下剤投与などの対症療法を行う。
慢性期のてんかんに対しては、抗てんかん薬による内服治療が行われる。薬剤抵抗性で難治の場合は、機能的半球離断、迷走神経刺激を含むてんかん外科的治療、ケトン食を代表とする食事療法などが行われる。運動障害の片麻痺に対しては、リハビリテーション、装具、ボトックスを含めた内科的治療、整形外科的治療を行う。知的障害、精神行動障害に対しては、その重症度に合わせて必要な支援を行う。
5.予後
症例により様々で一定の見解はない。てんかんは各種治療に抵抗性で、難治性に経過することがあり、長期の抗てんかん薬内服が必要となることが多い。片麻痺や知的障害に関しては、徐々に軽快し日常生活に支障がない場合もあるがまれで、多くは適切な支援を必要とする。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(ウイルス感染症などによる何らかの免疫的関与が推定されている。)
3. 効果的な治療方法
未確立(抗てんかん薬治療、てんかん外科治療などの対症療法のみである。)
4. 長期の療養
必要(てんかん、片麻痺が持続、他に知的障害と精神行動障害を伴うことがあり、生活の支障は大きい。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6. 重症度分類
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分、「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級 |
能力障害評価 |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
○ 情報提供元
「希少てんかんに関する包括的研究」
研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 客員研究員 井上有史
分担研究者 埼玉県立小児医療センター 神経科科長 菊池健二郎
<診断基準>
片側痙攣・片麻痺・てんかん症候群痙攣の診断基準
A.症状
① 周産期歴と発達歴に異常なく、発症前に神経学的異常を認めない。
② 急性期症状として痙攣発作(多くは片側性痙攣だが全般性痙攣であっても除外されない。)で発症、その後1週間以上持続する片麻痺を呈する。痙攣発作は長時間遷延することが多いが、その間に意識障害が持続するとは限らない。
③ ②の発作後、1か月以降に焦点性発作、二次性全般化発作を発症する。多くは急性期症状後、1から4年で発症する。
B.検査所見
① 血液・生化学的検査所見:特異的所見はない。
② 脳波所見:急性期には、片麻痺の責任病変側に優位な鋭波を混じる律動的な1.5~3Hz高振幅徐波が持続する。周波数は多様で、波形も多形性に富み、間代性の筋収縮と突発性異常波は同期しない。慢性期には、局在に応じた棘波、鋭波などのてんかん性異常所見がみられる。
③ 頭部画像所見:急性期CTは責任病変側大脳半球の皮髄境界が不鮮明となり、低吸収を呈し、半球全体が腫大を示すこともある。MRIではT2、拡散強調画像で病変側大脳半球の高信号を認め、同部の皮質下白質優位にADCが低下し細胞性浮腫が示唆される。脳血流SPECT、MR angiographyでは、急性期に病変側大脳半球の灌流増加を認める。慢性期には病変は萎縮し、一部に層状壊死を示唆する所見が認められる。
C.鑑別診断:以下の疾患を鑑別する。
皮質異形成、片側巨脳症などの片側脳形成異常を伴う難治てんかん、ラスムッセン症候群を鑑別する。
D.遺伝学的検査:
SCN1A遺伝子、CACNA1A遺伝子変異の検索
<診断のカテゴリー>
A 症状を全て満たし、かつB.検査所見の②又は③のいずれかを認めた場合に診断される。急性期症状は生後6か月から4歳の発熱時に出現することが多い。
<重症度分類>
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分、精神症状・能力障害二軸評価を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級(※1) |
能力障害評価(※2) |
1級程度の場合 |
1~5全て |
2級程度の場合 |
3~5のみ |
3級程度の場合 |
4~5のみ |
「G40てんかん」の障害等級(※1)の等級を確認し、能力障害評価(※2)の該当性を確認する。
※1 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分
てんかん発作のタイプと頻度 |
等級 |
ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合 |
1級程度 |
イ、ロの発作が月に1回以上ある場合 |
2級程度 |
イ、ロの発作が月に1回未満の場合 |
3級程度 |
「てんかん発作のタイプ」 イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
※2 精神症状・能力障害二軸評価
(2)能力障害評価
○判定に当たっては以下のことを考慮する。
①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。
②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合 を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。
1 |
精神障害や知的障害を認めないか、又は、精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通に出来る。 |
2 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。 |
3 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援 を必要とする。 |
4 |
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。 |
5 |
精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんど出来ない。 |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 浜野晋一郎:片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群.稀少てんかんの診療指標(日本てんかん学会編),82-85,診断と治療社,2017.
- 菊池健二郎,浜野晋一郎.片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群.てんかん症候群 診断と治療の手引き.日本てんかん学会(編).メディカルレビュー社,2023;96-99.