皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)(指定難病124)

ひしつかこうそくとはくしつのうしょうをともなうじょうせんしょくたいゆうせいのうどうみゃくしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarct and Leukoencephalopathy:CADASIL)は、常染色体優性遺伝形式を示し、若年期から前兆を伴う片頭痛が先行、CT・MRIで同定される大脳白質病変が徐々に進行、中年期から脳卒中危険因子がなくても皮質下白質にラクナ梗塞を繰り返し発症し、うつ症状、脳血管性認知症に至る。NOTCH3遺伝子変異を認め、病理学的に脳小血管の平滑筋の変性と、電顕でオスミウムに濃染する顆粒(GOM)の蓄積を特徴とし、遺伝子診断又は病理診断で確定診断する。
 
2.原因
Notch3遺伝子に、主としてシステイン残基に関連する180種類近くの点変異、欠失を認める。
 
3.症状
初発症状は前兆を伴う片頭痛発作で20から30歳頃に発症することが多い。脳卒中発作は純粋運動型、運動失調片麻痺型、純粋感覚型又は感覚運動型の典型的なラクナ症候群の頻度が高く、一過性脳虚血発作の場合もある。反復する脳卒中発作により、錐体路徴候、仮性球麻痺、歩行障害、尿失禁など血管性パーキンソン症候群を示す。それとともに鬱状態や,無気力などの精神症状が進行し、階段状に皮質下性認知症が悪化する。10%では認知症は単独で進行すること、双極性気分障害と診断されることもある。局所性又は全身性痙攣発作、末梢神経障害、難聴、めまい発作を生じることもある。
 
4.治療法
従来の脳卒中の再発予防として用いられる抗血小板剤の効果はなく、抗認知症効果を認める薬剤もないため、治療法が確立していない
 
5.予後
脳梗塞を繰り返すと60歳前後で寝たきりとなり、男性は65歳前後、女性70歳前後で死亡する。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約200人
2.  発病の機構
不明(繰り返し発症する脳梗塞の発症機序は不明。)
3.  効果的な治療方法
未確立(通常の脳梗塞に対する治療では再発予防は難しく、根本的な治療法は未確立である。)
4.  長期の療養
必要(麻痺症状及び認知症のため。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが
3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「遺伝性脳小血管病の病態機序の解明と治療法の開発班」
研究分担者 京都府立医科大学 教授 水野敏樹
 
 
 
<皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)診断基準>
Definite、Probableを対象とする。                                                                                           
 
1 55歳以下の発症(大脳白質病変もしくは2の臨床症状)
2 下記のうち、2つ以上の臨床症状

  1.      皮質下性認知症、錐体路徴候又は偽性球麻痺              
  2.      神経症状を伴う脳卒中様発作                                                                               
  3.      うつ症状                         
  4.      片頭痛                                                                     

3 常染色体優性遺伝形式                             
4 MRI/CTで、側頭極を含む大脳白質病変
5 白質ジストロフィーを除外できる(副腎白質ジストロフィー(ALD)、異染性白質ジストロフィー(MLD)等)
 
診断のカテゴリー
Definite
3、4を満たし、NOTCH3遺伝子の変異、または皮膚等の組織における電子顕微鏡所見でGOM(オスミウムに濃染する顆粒)を認める。
注:
1)    NOTCH3遺伝子の変異はEGF様リピートのCysteineのアミノ酸置換を伴う変異。その他の変異に関しては、原因とするためには、家系内での解析をふまえ判断する。
2)    凍結切片を用いた、抗Notch3抗体による免疫染色法では、血管壁内に陽性の凝集体を認める。本方法は、熟練した施設では有用な方法であり、今後GOMに代わる可能性もある。
 
Probable
上記の5項目を全て満たすが、NOTCH3遺伝子の変異の解析又は電子顕微鏡でGOMの検索が行われていない。
 
Possible
4を満たし(側頭極病変の有無は問わない。)、1又は2の臨床症状の最低1つを満たし、3が否定できないもの(両親の病歴が不明等)。
 
 
 
<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが
3以上を対象とする。
 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

全く症候がない

自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
 
 
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 成人発症白質脳症の実態調査とレジストリ作成の研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和6年6月)